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地域医療構想と病院再編|病床機能転換とM&Aの関係を解説

「地域医療構想」という言葉を耳にする機会が増えたものの、それが自院の経営や将来の再編にどう関わるのか、具体的にイメージできない病院経営者の方は少なくありません。とりわけ「病床機能をどう転換すべきか」「近隣病院との統合や譲渡を検討すべきか」といった経営判断は、地域医療構想の枠組みを正しく理解しないまま進めることができません。

結論から言えば、地域医療構想は、将来の医療需要の変化に合わせて地域全体の病床機能を最適化していく仕組みであり、その実現手段のひとつとして病院の再編・統合、そしてM&A(合併・事業譲渡など)が現実的な選択肢になりつつあります。単独での機能転換が難しい病院にとって、M&Aは病床機能や人材を地域内で承継・再配置するための有力な方法です。

この記事では、地域医療構想の基本的な考え方から、なぜ病院の再編・機能分化が求められるのか、病床機能報告の仕組み、そして再編・機能転換の手段としてのM&Aの位置づけまでを、一次情報に基づいて体系的に解説します。

POINT地域医療構想は、将来の医療需要に基づき「高度急性期・急性期・回復期・慢性期」の4機能ごとに必要な病床量を推計し、地域単位で病床機能の最適化を図る仕組みです。全国341の構想区域ごとに調整が進められ、病床機能報告のゴールは2026年6月末まで延長されています(出典:厚生労働省)。この枠組みの下で、単独では難しい機能転換を実現する手段としてM&A(合併・事業譲渡)の重要性が高まっています。

地域医療構想とは|4機能ごとの必要病床量を推計する仕組み

地域医療構想とは、将来の人口動態と医療需要の変化を見据え、地域ごとに必要な病床の量と機能を推計し、その実現に向けて関係者が協議しながら医療提供体制を再構築していく仕組みです。医療は地域ごとに需要も供給体制も異なるため、全国一律ではなく地域単位で最適化を図る点が大きな特徴です。

4つの医療機能ごとに必要病床量を推計する

地域医療構想では、病床を機能に応じて次の4つに区分し、それぞれの将来の必要量を推計します。

医療機能 主な役割の考え方
高度急性期 急性期のうち、特に診療密度が高い医療を提供する機能(集中治療など)
急性期 急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けた医療を提供する機能
回復期 急性期を経過した患者の在宅復帰に向けた医療やリハビリを提供する機能
慢性期 長期にわたり療養が必要な患者を受け入れる機能

これら4つの医療機能ごとに、将来の医療需要に基づく必要病床量を推計し、現状とのギャップを地域単位で埋めていくのが地域医療構想の基本的な考え方です(出典:厚生労働省)。

全国341の構想区域と病床機能報告

地域医療構想は、全国341の構想区域を単位として進められています(出典:厚生労働省)。構想区域は、患者の受療動向などを踏まえて設定された地域のまとまりであり、この区域ごとに必要病床量の推計や関係者による協議が行われます。

その基礎となるのが「病床機能報告」です。各医療機関が、自院の病棟ごとに担っている医療機能(高度急性期・急性期・回復期・慢性期のいずれか)を報告することで、地域全体で現在どの機能がどれだけ提供されているかを把握できます。この報告と将来の必要量を突き合わせることで、地域として過不足のある機能が見えてくる仕組みです。

報告のゴールは2026年6月末まで延長

地域医療構想に関する報告のゴールは、2026年6月末まで延長されています(出典:厚生労働省)。制度のスケジュールは見直されることがあるため、病院経営者は最新の一次情報を確認しながら、自院の機能をどう位置づけるかを継続的に検討する必要があります。

なぜ病院の再編・機能分化が求められるのか

地域医療構想が進められている背景には、日本が直面する人口構造の急激な変化があります。単に病床を減らすことが目的ではなく、変化する医療需要の「質」に医療提供体制を合わせていくことが本質です。

2025年問題と多死社会の到来

いわゆる団塊の世代が全員75歳以上の後期高齢者となり、2025年には後期高齢者人口が約2,180万人に達します(出典:厚生労働省等)。後期高齢者の増加は、医療需要の総量だけでなく、その中身を大きく変えます。

高齢者は複数の慢性疾患を抱えることが多く、治す医療(急性期)だけでなく、支える医療(回復期・慢性期)や在宅・介護との連携がより重要になります。実際、死亡場所の割合を見ると、2023年時点で病院・診療所が65.7%、自宅が17.0%、介護施設等が15.5%となっており(出典:厚生労働省「人口動態統計」)、看取りの場も多様化しています。こうした「多死社会」への移行は、地域全体で医療・介護の役割分担を組み替える必要性を高めています。

医療需要の「量」から「質」への変化

これまでの病院経営は、急性期医療を中心に病床を確保することが競争力の源泉になりがちでした。しかし今後は、地域によって急性期病床が過剰になる一方、回復期を担う病床が不足するといったミスマッチが生じやすくなります。

  • 急性期に偏った病床構成のままでは、稼働率の低下や経営効率の悪化を招きやすい
  • 回復期・慢性期など地域で不足する機能への転換が、経営面でも合理的な選択になり得る
  • 医師・看護師などの人材確保難が、単独での機能維持をさらに難しくしている

このように、地域医療構想が求める機能分化は、地域全体の最適化であると同時に、個々の病院にとっても持続可能な経営モデルを考えるうえで避けて通れないテーマになっています。

病床機能報告と病床の考え方

病院再編を理解するうえで欠かせないのが、病床機能報告と4機能の考え方です。ここでは、それぞれの機能が地域の中でどのような役割を担うのかを整理します。

4つの病床機能の役割

  • 高度急性期:救命救急や集中治療など、特に診療密度の高い医療を担う機能
  • 急性期:急性期患者の状態を早期に安定させる医療を担う機能
  • 回復期:急性期を脱した患者の在宅復帰やリハビリを支える機能
  • 慢性期:長期の療養を必要とする患者を受け入れる機能

病床機能報告では、各病棟が担っている機能をこの4区分で報告します。地域医療構想は、この報告で把握される現状と、将来の必要病床量とのギャップを踏まえて、地域全体で機能のバランスを調整していくことを目指しています(出典:厚生労働省)。

病床機能報告

一般病床・療養病床を有する医療機関が、病棟単位で自院の医療機能(高度急性期・急性期・回復期・慢性期)を都道府県に報告する制度。地域全体の機能の現状を「見える化」し、地域医療構想の実現に向けた協議の基礎資料となります(出典:厚生労働省)。

全国の病院・病床の全体像

地域単位の議論の前提として、全国の医療提供体制の規模も押さえておきましょう。全国の病院数は2024年4月末時点で8,079施設、病床数は約147万床(1,474,741床)です(出典:厚生労働省「医療施設動態調査」)。病院数は長期的に減少傾向にあり、2013年から2024年にかけて約476施設減少しています(出典:厚生労働省「医療施設動態調査」)。

こうした全体の縮小傾向のなかで、限られた医療資源を地域でどう配分し直すかが問われており、それが病院再編・機能転換の議論につながっています。

地域医療構想の下での病院再編・統合の動き

地域医療構想は、各病院が個別に機能を判断するだけでなく、地域単位で医療提供体制を再構築していくことを重視しています。ここで具体的に動くのが、地域医療構想調整会議です。

地域単位での役割分担と機能転換

構想区域ごとに設けられる地域医療構想調整会議では、地域の医療関係者や行政などが集まり、各医療機関の機能や将来の方向性について協議します。ここでの議論を通じて、たとえば次のような再編・機能転換の方向性が検討されます。

  • 急性期病床が過剰な地域で、一部の病床を回復期へ転換する
  • 近接する複数の病院で機能を分担し、重複を解消する
  • 単独では維持が難しい機能を、地域内の他院と統合して集約する

こうした動きは、必ずしも病床の削減だけを意味しません。地域で不足する機能を強化し、過剰な機能を適正化することで、地域全体としての医療の質と効率を高めることが目的です。

単独での機能転換が難しいケース

もっとも、機能転換は口で言うほど簡単ではありません。急性期から回復期への転換ひとつをとっても、施設基準や人員配置、設備、診療報酬の構成が変わり、経営体力や人材の確保が求められます。

単独での機能転換にはハードルがある

老朽化した施設の建て替え負担、必要な人材の確保、転換に伴う一時的な収益変動などにより、単独での機能転換や存続が難しい病院は少なくありません。こうしたケースでは、地域内での連携・統合、すなわちM&Aが現実的な解決策として浮上します。

再編・機能転換の手段としてのM&A

地域医療構想が求める再編・機能転換を、自院単独で実現するのが難しい場合、M&A(合併・事業譲渡など)は病床機能や人材を地域内で承継・再配置するための有力な手段になります。

医療法人で採れる主なスキーム

ここで重要なのが、病院を運営する医療法人は非営利法人であり、剰余金の配当が禁止されているという点です。そのため、株式会社で用いられる株式譲渡・株式交換・株式移転は使えません。医療法人で採れる主なスキームは次のとおりです(出典:医療法、厚生労働省)。

  • 出資持分の譲渡(+社員・役員の交代):持分あり医療法人で用いられる方法
  • 合併:吸収合併・新設合併により法人そのものを統合する方法
  • 事業譲渡:病院・病棟などの事業を個別に承継する方法

病床機能の承継・再配置という観点では、法人ごと統合して機能を集約する「合併」や、特定の病院・病棟を承継する「事業譲渡」が、地域再編の実務でとくに重要になります。医療法人M&Aの全体像や進め方については、医療法人M&Aの動向と6つの成功ポイントもあわせてご覧ください。

合併による病床の承継と手続き

合併は、地域内の複数の医療法人を統合し、病床機能を再編するうえで中心的な手段です。ただし、医療法人の合併には非営利法人特有の手続きが求められます。

  1. 吸収合併・新設合併の契約を締結する
  2. 社員総会で総社員の同意を得る
  3. 都道府県知事の認可を受ける(知事は都道府県医療審議会の意見を聴く)
  4. 認可通知後2週間以内に財産目録・貸借対照表を作成する
  5. 債権者保護手続き(異議申出の公告・催告。期間は2ヶ月を下れない)を行う
  6. 合併の登記により効力が発生する

このように、医療法人の合併では都道府県知事の認可が必要であり(出典:医療法、厚生労働省通知「医療法人の合併及び分割について」平成28年)、行政との調整が前提になります。ここが、地域医療構想との整合が重要になる理由でもあります。

地域医療構想調整会議との整合

病床機能の転換や再配置を伴うM&Aは、地域医療構想の方向性と整合していることが望まれます。地域で過剰な機能をさらに増やすような再編は、調整会議での合意形成や行政の認可の観点からも進めにくいためです。

逆に、地域で不足する回復期などへの転換を伴う再編は、地域医療構想の実現に資するものとして、関係者の理解を得やすい面があります。M&Aを検討する際は、単なる当事者間の交渉にとどまらず、地域医療構想調整会議での議論や構想区域全体の需給バランスを踏まえた設計が求められます。病院M&Aの基本的な考え方や進め方は、病院M&Aの解説ページで体系的に整理しています。

認定医療法人制度も選択肢のひとつ

持分あり医療法人が持分なしへ移行する際に活用できる「認定医療法人制度」では、医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予などの措置があります。認定の期限は令和8年(2026年)12月31日から令和11年(2029年)12月31日まで3年延長されました(出典:厚生労働省、財務省)。事業承継や再編を検討する際の周辺制度として押さえておきたいポイントです。

今後の展望と病院経営者が備えること

地域医療構想は今後も継続的に見直されながら進められていきます。病院経営者にとって重要なのは、制度の動きを他人事とせず、自院の機能と地域内での位置づけを主体的に考えることです。

自院の機能と地域内ポジションを見極める

まず取り組むべきは、自院がどの医療機能を担い、地域の中でどのような役割を果たしているのかを客観的に把握することです。病床機能報告のデータや将来の必要病床量の推計を踏まえ、次の点を整理しておくと、再編やM&Aの検討がスムーズになります。

  • 自院の病棟ごとの機能と稼働状況、施設基準・看護配置の現状
  • 構想区域内での自院のポジション(どの機能が過剰・不足か)
  • 老朽化・建て替え負担や人材確保の見通し
  • 出資持分の有無や、承継・再編の際に採り得るスキーム

早めの検討が選択肢を広げる

医療機関を取り巻く環境は厳しさを増しています。全国の医療機関の休廃業・解散は2024年に722件と過去最多を記録し、その内訳は病院17件、診療所587件、歯科118件でした(出典:帝国データバンク「医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2024年)」)。また、医療業の後継者不在率は61.8%と全業種で3番目に高い水準にあります(出典:帝国データバンク(2024年))。

経営が行き詰まってからでは、採り得る選択肢は大きく狭まります。地域医療構想の方向性や自院の機能を早めに見極め、必要に応じて統合・機能転換・承継を検討しておくことが、地域医療を守りながら経営を持続させるうえで重要です。

再編やM&Aは、単なる出口戦略ではなく、地域で不足する機能を強化し、自院の強みを活かしながら医療を継続していくための前向きな選択肢にもなり得ます。病院M&Aの解説ページで全体像を確認したうえで、専門家に相談しながら準備を進めることをおすすめします。

よくある質問

地域医療構想が進むと、必ず病床は減らされるのですか?

地域医療構想は、一律に病床を削減することを目的とした制度ではありません。将来の医療需要に基づき、4つの医療機能ごとに必要病床量を推計し、地域として過剰な機能は適正化し、不足する機能は強化することを目指す仕組みです(出典:厚生労働省)。地域によっては、回復期など不足する機能への転換が求められるケースもあります。

病床機能の転換は自院だけで進めるべきですか?

機能転換には施設基準・人員配置・設備・診療報酬構成の変更が伴い、経営体力や人材確保が必要になります。単独での転換が難しい場合は、地域内での連携・統合やM&A(合併・事業譲渡)が現実的な選択肢になります。いずれの場合も、地域医療構想調整会議での議論や構想区域全体の需給バランスとの整合を意識することが大切です。

病床のM&Aはどのようなスキームで行われますか?

病院を運営する医療法人は非営利法人で株式譲渡が使えないため、主に「出資持分の譲渡」「合併」「事業譲渡」が用いられます(出典:医療法、厚生労働省)。とくに合併は都道府県知事の認可や債権者保護手続きなど、非営利法人特有のプロセスを要します。病床機能の承継・再配置には、これらのスキームの特性を踏まえた設計が必要です。

再編やM&Aを検討し始めるタイミングは?

経営が行き詰まってからでは選択肢が限られます。医療機関の休廃業・解散が過去最多、医療業の後継者不在率も高水準にある現状(出典:帝国データバンク(2024年))を踏まえると、自院の機能と地域内ポジションを早めに見極め、余裕のあるうちに検討を始めることが望まれます。

まとめ

地域医療構想は、将来の医療需要に基づき「高度急性期・急性期・回復期・慢性期」の4機能ごとに必要病床量を推計し、全国341の構想区域を単位に病床機能の最適化を図る仕組みです。報告のゴールは2026年6月末まで延長されており(出典:厚生労働省)、2025年に後期高齢者が約2,180万人に達する多死社会(出典:厚生労働省等)を背景に、病院の再編・機能分化の必要性はますます高まっています。

単独での機能転換が難しい病院にとって、M&A(合併・事業譲渡)は病床機能や人材を地域内で承継・再配置するための有力な手段です。ただし医療法人は非営利法人ゆえに採れるスキームが限られ、合併には都道府県知事の認可なども求められるため、地域医療構想調整会議との整合を意識した設計が欠かせません。

POINT地域医療構想の下での病院再編・機能転換は、地域医療を守りながら経営を持続させるための前向きな選択肢です。自院の機能と地域内ポジションを早めに見極め、余裕のあるうちに準備を進めることが選択肢を広げます。

CUCAPでは、病院・クリニック・介護分野に精通した専門家が、地域医療構想を踏まえた再編・機能転換・事業承継のご相談を承っています。病床機能の見直しやM&Aをご検討の際は、まずは無料相談よりお気軽にお問い合わせください。

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