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病院M&Aのスキーム徹底比較|合併・事業譲渡・出資持分譲渡

「病院のM&Aを検討しているが、どのスキームを選べばよいのか分からない」「株式会社のM&Aと同じように株式譲渡ができると思っていたが、病院は勝手が違うと聞いた」——病院(医療法人)のM&Aでは、こうした戸惑いが必ずと言ってよいほど生じます。理由は明快で、医療法人は株式会社とは根本的に異なる非営利法人であり、株式そのものが存在しないからです。

病院M&Aで実際に採り得るスキームは、大きく「出資持分譲渡(社員・役員の交代を伴う)」「合併」「事業譲渡」の3つに整理できます。それぞれ法人格の存続、許認可・雇用の承継、所要期間、簿外債務リスクの扱いがまったく異なり、どれを選ぶかによって取引の難易度もリスク配分も大きく変わります。

この記事では、病院M&Aで使えるスキームの全体像を示したうえで、なぜ株式譲渡系のスキームが使えないのかを制度面から解説し、3つの主要スキームを比較表とともに徹底比較します。最後にスキーム選定の判断軸を整理しますので、自院の状況に照らして最適な手法を見極める手がかりとしてください。

POINT医療法人は非営利法人で剰余金の配当が禁止されているため、株式会社で用いる株式譲渡・株式交換・株式移転は使えません。病院M&Aで採れる主なスキームは「出資持分譲渡(+社員・役員交代)」「合併」「事業譲渡」の3つです。持分の有無・スピード・簿外債務リスク・病床や許認可の承継のしやすさという4つの軸で、案件ごとに最適なスキームを選び分けることが重要です。

病院(医療法人)のM&Aで使えるスキームの全体像

病院のM&Aを考えるうえで最初に押さえるべきなのは、「対象となる法人の性格」です。多くの病院は医療法人が開設・運営しており、医療法人は営利を目的としない非営利法人と位置づけられています。株式会社のように株式を発行して資本を集め、株主に配当を分配する仕組みとは、そもそもの成り立ちが違います。

そのため、株式会社のM&Aで一般的に用いられる株式譲渡を、そのまま病院に当てはめることはできません。病院M&Aで現実的に採用できるのは、次の3つのスキームです。

  • 出資持分譲渡(+社員・役員交代):持分あり医療法人において、出資持分を譲り渡すとともに、社員総会の構成員である社員や理事・監事などの役員を入れ替えて、実質的な経営権を移転する手法。
  • 合併:複数の医療法人を1つに統合する手法。吸収合併と新設合併があり、都道府県知事の認可を要する。
  • 事業譲渡:病院という事業(土地・建物・設備・スタッフ・患者基盤など)を、個別の資産・契約の移転として買い手に引き渡す手法。

どのスキームが使えるか、あるいは望ましいかは、対象医療法人が「持分あり」か「持分なし」か、そして買い手が既存の医療法人か新規参入かによっても変わります。まずは各スキームの性質を正しく理解することが、病院M&A成功の出発点となります。病院M&Aの全体像や進め方については、病院M&Aの専門情報ハブもあわせてご覧ください。

なぜ株式譲渡・株式交換・株式移転が使えないのか

株式会社のM&Aでは、株式譲渡が最もシンプルで広く使われる手法です。オーナー株主が保有株式を買い手に売却するだけで、会社が持つ許認可・契約・従業員・資産負債をまるごと引き継げるため、手続きの負担が比較的軽いのが特徴です。ではなぜ、病院ではこの手法が使えないのでしょうか。

医療法人は「非営利法人」で株式が存在しない

答えは、医療法人が非営利法人であることに尽きます。医療法人には株式会社でいう「株式」という概念がなく、剰余金の配当も法律で禁止されています(出典:医療法)。株式が存在しない以上、株式を売買する株式譲渡、株式を対価とする株式交換、持株会社を新設する株式移転といった、いずれも「株式」を前提とするスキームは成立しようがないのです。

配当禁止が意味すること

剰余金の配当が禁止されているということは、医療法人が生み出した利益を出資者へ分配できないということです。この非営利性が、医療法人を株式会社と決定的に分ける特徴であり、M&Aで採り得るスキームを制約する根本原因になっています。

「持分あり」医療法人だからこそ出資持分譲渡が可能

もっとも、非営利法人であっても経営権の移転がまったくできないわけではありません。鍵を握るのが「出資持分」です。平成19年(2007年)の医療法改正より前に設立された医療法人の多くは、出資者が持分を保有する「持分あり医療法人(経過措置型)」であり、この持分を譲渡することができます(出典:医療法)。一方、改正後に設立された医療法人は原則として「持分なし」であり、譲渡できる持分がありません。

つまり、対象の病院が持分あり医療法人か持分なし医療法人かによって、採り得るスキームの選択肢が大きく変わります。持分の有無は、病院M&Aのスキーム検討における最初の分岐点だと言えます。医療法人M&Aで使えるスキームの全体像は、医療法人M&Aのスキーム5選でも詳しく整理しています。

主要スキーム①:出資持分譲渡(+社員・役員交代)

持分あり医療法人において、実質的に経営権を移転する中心的な手法が出資持分譲渡です。株式会社の株式譲渡に近い感覚で経営権を引き継げるため、持分あり医療法人のM&Aでは第一に検討される手法です。

出資持分の譲渡だけでは経営権は動かない

注意すべきは、出資持分を譲り受けただけでは医療法人の経営権を掌握できないという点です。医療法人の意思決定は社員総会が担い、業務執行は理事会・理事長が担います。ここでいう「社員」とは従業員ではなく、社員総会で議決権を持つ構成員のことです。したがって経営権を実質的に移すには、出資持分の譲渡に加えて、社員の入れ替えと、理事・監事といった役員の交代をあわせて行う必要があります。

医療法人の「社員」

医療法人における社員とは、社員総会で議決権を行使する構成員を指します。株式会社の株主に近い立場ですが、出資額の多寡にかかわらず原則として一人一議決権である点が異なります。経営権の移転には、この社員の交代が欠かせません。

法人格が存続するメリットと簿外債務リスク

出資持分譲渡(+社員・役員交代)では、医療法人という法人格がそのまま存続します。病院の開設許可や各種の施設基準、従業員との雇用契約、取引先との契約なども、法人格が変わらないため原則としてそのまま継続します。事業の連続性を保ちやすいことが大きな利点です。

その反面、法人格をまるごと引き継ぐということは、過去の債務や紛争、行政指導の履歴なども含めて承継するということです。帳簿に表れていない簿外債務や偶発債務を抱え込むリスクがあるため、財務・法務・労務にわたる十分なデューデリジェンス(買収監査)が不可欠になります。

主要スキーム②:合併

合併は、複数の医療法人を法的に1つの法人へ統合するスキームです。既存の医療法人が買い手(受け皿)となる場合に用いられ、グループ内の再編や、地域における医療機能の集約を図る場面で選択されます。

吸収合併と新設合併

合併には、一方の医療法人が他方を吸収する「吸収合併」と、新たに設立する医療法人にすべてを統合する「新設合併」があります。いずれの場合も、消滅する法人の権利義務は存続法人または新設法人へ包括的に承継されます。個別の資産・契約を一つひとつ移し替える必要がない点で、事業譲渡とは対照的です。

都道府県知事の認可と債権者保護手続き

医療法人の合併は、株式会社の合併以上に手続きが重く、行政の関与が強いのが特徴です。おおまかな流れは次のとおりです(出典:医療法、厚生労働省通知「医療法人の合併及び分割について」平成28年)。

  1. 吸収合併契約または新設合併契約を締結する。
  2. 社員総会で総社員の同意を得る。
  3. 都道府県知事の認可を受ける(知事は都道府県医療審議会の意見を聴く)。
  4. 認可通知後2週間以内に、財産目録・貸借対照表を作成する。
  5. 債権者保護手続き(異議申出の公告・催告)を行う。異議を述べる期間は2ヶ月を下ることができない。
  6. 合併の登記により効力が発生する。

合併は所要期間が長くなりやすい

都道府県知事の認可や都道府県医療審議会の意見聴取、2ヶ月を下れない債権者保護手続きなど、法定のプロセスが積み重なるため、合併はどうしても所要期間が長くなりがちです。スケジュールに余裕をもって計画する必要があります。

主要スキーム③:事業譲渡

事業譲渡は、病院という「事業」を構成する資産・契約を、個別に選んで買い手へ移転するスキームです。土地・建物・医療機器といった資産、患者基盤やスタッフ、取引先との契約などを対象に、譲渡する範囲を当事者間で切り分けられる柔軟さがあります。

欲しい資産・負債だけを選べる柔軟性

事業譲渡の最大の利点は、承継する対象を選べることにあります。買い手は必要な資産・契約だけを引き受け、不要な負債や引き継ぎたくないリスクを対象から外すことが可能です。これにより、出資持分譲渡や合併で問題となる簿外債務・偶発債務を切り離しやすくなり、想定外の債務を抱え込むリスクを抑えられます。持分なし医療法人が対象で出資持分譲渡が使えない場合や、法人ごと引き継ぐことに抵抗がある場合の有力な選択肢です。

許認可・雇用の再取得と個別同意という負担

一方で、事業譲渡には手続き面の負担が伴います。事業譲渡では法人格が移転しないため、病院の開設許可や各種の施設基準は買い手側で改めて取得し直す必要があるのが原則です。従業員の雇用契約も自動では引き継がれず、個々の従業員から転籍の同意を得なければなりません。取引先との契約も、契約上の地位を移すには相手方の同意が必要になるものが少なくありません。承継対象を選べる柔軟性の裏側で、こうした個別の手続きコストが発生する点は理解しておくべきです。

事業譲渡と、法人ごと承継する手法との違いをより深く理解したい方は、事業譲渡と株式譲渡の違いの解説もあわせて参考にしてください(株式譲渡の考え方は、病院における出資持分譲渡と対比すると理解が深まります)。

3スキーム比較表:手法・法人格・許認可/雇用・期間・簿外債務リスク

ここまで見てきた3つのスキームを、病院M&Aで重要となる観点で一覧にまとめます。自院の状況と照らし合わせながら、どの手法が適しているかを検討する際の見取り図としてご活用ください。

観点 出資持分譲渡(+社員・役員交代) 合併 事業譲渡
対象法人 持分あり医療法人 医療法人同士(買い手が既存法人) 持分の有無を問わない
法人格 対象法人がそのまま存続 消滅法人は解散し存続/新設法人へ統合 移転しない(事業のみ移転)
許認可・施設基準の承継 法人格が変わらず原則そのまま継続 包括承継されるが認可手続きが必要 原則として買い手が再取得
雇用の承継 雇用契約は原則そのまま継続 包括的に承継される 個別に転籍の同意が必要
所要期間 相対的に短くなりやすい 知事認可・債権者保護手続き等で長くなりやすい 承継対象や許認可再取得の範囲による
簿外債務リスク 法人ごと承継するため相対的に高い 包括承継のため相対的に高い 対象を選べるため切り離しやすい

上表はあくまで一般的な整理です。実際には対象法人の定款、持分の有無、病床機能や施設基準、行政との関係など個別事情によって手続きや難易度は変わります。具体的な検討にあたっては専門家への相談をおすすめします。

スキーム選定の判断軸

3つのスキームは優劣で決まるものではなく、案件ごとの条件に応じて選び分けるものです。実務上、特に重要となる判断軸を4つ挙げます。

① 持分の有無

最初の分岐点は、対象が持分あり医療法人か持分なし医療法人かです。持分ありであれば出資持分譲渡が中心的な選択肢になります。持分なしの場合は出資持分譲渡が使えないため、合併や事業譲渡を軸に検討することになります。

② スピード(所要期間)

早期の承継を優先したいのか、時間をかけてでも確実な統合を図りたいのかも重要です。合併は都道府県知事の認可や2ヶ月を下れない債権者保護手続きなど法定プロセスが多く、所要期間が長くなりやすい傾向があります。一方、出資持分譲渡は相対的に短期間での実行が期待できます。

③ 簿外債務リスク

過去の債務やトラブルを引き継ぎたくない場合は、承継対象を選べる事業譲渡が有利です。法人ごと引き継ぐ出資持分譲渡や合併では簿外債務・偶発債務のリスクが残るため、その分だけデューデリジェンスの精度が問われます。

④ 病床・許認可の承継のしやすさ

病院は病床機能や施設基準、看護配置といった許認可・行政上の要素が価値の根幹を成します。これらを途切れさせずに引き継ぎたいなら、法人格が存続し許認可が原則継続する出資持分譲渡が適します。事業譲渡では許認可を再取得するのが原則であり、病床や施設基準の承継可否を事前に慎重に確認する必要があります。

認定医療法人制度にも留意

持分あり医療法人が持分なしへ移行する際に活用できる「認定医療法人制度」もあります。医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予などの措置があり、認定の期限は令和11年(2029年)12月31日まで延長されました(出典:厚生労働省、財務省)。持分の扱いはM&Aスキームの選択に直結するため、こうした制度の動向もあわせて確認しておくとよいでしょう。


よくある質問

病院のM&Aで株式譲渡はまったく使えないのですか?

医療法人が開設する病院については、株式が存在しないため株式譲渡は使えません。医療法人は非営利法人で剰余金の配当が禁止されており、株式譲渡・株式交換・株式移転はいずれも成立しません(出典:医療法)。株式譲渡に近い感覚で経営権を移すには、持分あり医療法人における出資持分譲渡(+社員・役員交代)を用いることになります。なお、病院を株式会社が運営しているケースなど、法人形態によっては扱いが異なる場合があります。

持分なし医療法人の病院はM&Aできないのですか?

持分なし医療法人でもM&Aは可能です。譲渡できる出資持分がないため出資持分譲渡は使えませんが、合併や事業譲渡といったスキームで経営の承継を図ることができます。どのスキームが適するかは、買い手の属性や承継したい範囲、許認可の扱いなどによって変わります。

合併はなぜ時間がかかるのですか?

医療法人の合併は行政の関与が強く、法定の手続きが積み重なるためです。社員総会での総社員の同意、都道府県知事の認可(知事は都道府県医療審議会の意見を聴く)、2ヶ月を下ることができない債権者保護手続き、合併の登記による効力発生といったプロセスを順に踏む必要があります(出典:医療法、厚生労働省通知「医療法人の合併及び分割について」平成28年)。そのため、他のスキームに比べて所要期間が長くなりやすいのです。

簿外債務が心配です。どのスキームがよいですか?

帳簿に表れない債務や偶発債務を引き継ぐリスクを抑えたい場合は、承継する資産・契約を選べる事業譲渡が有利です。法人ごと引き継ぐ出資持分譲渡や合併では、過去の債務やトラブルも含めて承継することになるため、財務・法務・労務にわたる丁寧なデューデリジェンスが欠かせません。いずれのスキームでも、専門家によるリスク精査が重要です。

まとめ

病院(医療法人)のM&Aは、非営利法人という性格ゆえに株式譲渡・株式交換・株式移転が使えず、「出資持分譲渡(+社員・役員交代)」「合併」「事業譲渡」の3つのスキームから選択することになります。持分の有無・スピード・簿外債務リスク・病床や許認可の承継のしやすさという4つの軸で整理すれば、自院に適したスキームの方向性が見えてきます。

もっとも、実際のスキーム選定は、対象法人の定款や持分の状況、病床機能・施設基準、行政との関係、そして買い手の属性など、数多くの個別事情が絡み合います。判断を誤ればスケジュールの遅延や想定外の債務承継といったリスクにつながりかねません。病院M&Aの進め方や最新の制度動向については病院M&Aの専門情報ハブで継続的に情報を発信していますので、あわせてご確認ください。

CUCAPは、病院・クリニック・介護分野に特化したM&A仲介会社として、スキームの選定から相手先探し、デューデリジェンス、契約・行政手続きまで一貫してご支援します。「自院にはどのスキームが合うのか」「持分の扱いをどう整理すべきか」といった段階からで構いません。まずはお気軽に無料相談までお問い合わせください。

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