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病院買収の注意点|デューデリジェンスと簿外債務リスクを徹底解説

病院の買収は、事業拡大や地域医療基盤の確保、あるいは後継者不在に悩む医療機関の事業承継の受け皿として、近年ますます注目を集めています。しかし「病院を買う」という行為は、一般的な株式会社の買収とは根本的に仕組みが異なります。医療法人という特殊な法人形態、非営利性の原則、そして数多くの許認可が絡むため、通常のM&Aの感覚で進めると思わぬ落とし穴にはまりかねません。

とくに深刻なのが、帳簿に載らない簿外債務や、将来発生しうる診療報酬の返還リスクです。これらは表面的な決算書のチェックだけでは見抜けず、買収後に多額の負担となって顕在化することがあります。だからこそ、病院買収では医療機関特有の視点を持ったデューデリジェンス(DD)が不可欠になります。

この記事では、病院買収を検討する経営者・法人向けに、一般企業の買収との違いから、買収前に確認すべきこと、病院特有のDDチェック項目、簿外債務・偶発債務への対処とスキーム選択、そして買収後のPMI(統合プロセス)までを、実務の流れに沿って徹底解説します。病院・クリニックのM&A全体像を知りたい方は、病院M&Aの専門ページもあわせてご覧ください。

POINT病院買収の成否は「医療法人特有のリスクをDDで洗い出せるか」で決まります。医療法人は非営利法人のため株式譲渡が使えず、出資持分譲渡・合併・事業譲渡といった限られたスキームから選ぶ必要があります。財務・税務・法務・労務の一般的なDDに加え、保険医療機関指定・施設基準・補助金・診療報酬の適正性という医療機関ならではの確認項目を押さえ、簿外債務や返還リスクを遮断できるスキームを選ぶことが重要です。

病院買収は一般企業の買収と何が違うのか

病院買収の検討を始める前に、まず「なぜ通常のM&Aと同じようには進められないのか」を理解しておく必要があります。ポイントは、医療法人という法人形態の特殊性と、事業運営に不可欠な許認可の存在です。

医療法人は「非営利法人」で株式が存在しない

株式会社であれば、株式を譲渡することで経営権を移転できます。しかし医療法人は非営利法人であり、剰余金の配当が法律で禁止されています。そもそも「株式」という概念が存在しないため、株式会社で用いる株式譲渡・株式交換・株式移転といった手法は病院M&Aでは使えません

そのため病院買収で採れる主なスキームは、次の3つに限られます。

  • 出資持分譲渡(+社員・役員の交代)
  • 合併(吸収合併・新設合併)
  • 事業譲渡

どのスキームを選ぶかによって、税務上の扱いや引き継ぐリスクの範囲が大きく変わります。この点は後の章で詳しく解説します。

出資持分

平成19年(2007年)の医療法改正前に設立された医療法人の多くは「持分あり医療法人」(経過措置型)で、出資者は出資持分を持ちます。改正後に設立された法人は原則「持分なし」となり、出資持分の譲渡はできません。買収対象がどちらの類型かで、採用できるスキームが変わります。(出典:医療法)

数多くの許認可が事業の前提になっている

病院を運営するには、医療法人としての設立認可はもちろん、保険診療を行うための保険医療機関指定、各種診療報酬を算定するための施設基準の届出など、多くの行政手続きが積み重なっています。これらの許認可はスキームによって「そのまま引き継げるもの」と「取り直しが必要になるもの」があり、承継の可否を見誤ると、買収後に一部の診療報酬が算定できなくなるといった事態を招きます。

背景にある事業承継ニーズの高まり

病院を取り巻く環境も、買収を後押ししています。全国の病院数は2024年4月末時点で8,079施設と長期的に減少傾向にあり(出典:厚生労働省「医療施設動態調査」)、医療業の後継者不在率は61.8%と全業種でも高い水準にあります(出典:帝国データバンク「全国後継者不在率動向調査(2024年)」)。2024年の医療機関の休廃業・解散は722件と過去最多を記録しており(出典:帝国データバンク「医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2024年)」)、地域医療を守るためにも、M&Aによる事業承継の重要性が増しています。

買収前に確認すべきこと

DDに入る前の準備段階で、買い手側が整理しておくべき論点があります。ここが曖昧なまま案件を進めると、DDの焦点がぼやけ、判断を誤る原因になります。

買収目的を明確にする

「なぜこの病院を買うのか」を言語化することが出発点です。地域でのシェア拡大なのか、特定の診療科や病床機能の獲得なのか、あるいは人材(医師・看護師)の確保なのか。目的が明確であれば、DDで重点的に見るべき項目や、多少のリスクを許容できる範囲も自ずと定まります。

資金計画とスキームの見立て

買収には対価だけでなく、DD費用、専門家報酬、買収後の設備更新やシステム統合費用などがかかります。さらに、持分あり医療法人の出資持分を承継する場合は、評価額次第で相続税・贈与税に関わる論点も生じます。資金の全体像を早い段階で描いておくことが重要です。

対象法人の類型を確認する

前述のとおり、医療法人が「持分あり」か「持分なし」かで採れるスキームが変わります。加えて、持分なしへの移行を国が認定する認定医療法人制度の対象になっているかも確認しておきたいポイントです。

認定医療法人制度

持分なし医療法人への移行計画を国が認定する制度で、医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予や、持分放棄による猶予税額の免除といった措置があります。認定の期限は令和11年(2029年)12月31日まで延長されています(令和8年度税制改正)。(出典:厚生労働省、財務省)対象法人の買収では、この制度の活用状況が税務に影響します。

医療法人の買収そのものの留意点は、医療法人買収の注意点を解説した記事でも詳しく取り上げていますので、あわせて参考にしてください。

デューデリジェンス(DD)の種類と病院特有のチェック項目

デューデリジェンスとは、買収対象の実態やリスクを事前に調査・精査する手続きです。DDの基本的な考え方についてはデューデリジェンスとは何かを解説した記事で体系的にまとめていますが、ここでは病院ならではの視点を中心に解説します。

DDの基本4分野

一般的なM&Aと同様、病院買収でも次の4分野が基本になります。

  • 財務DD:収益構造、資産・負債の実在性、キャッシュフローの実態
  • 税務DD:申告の適正性、未払い・追徴のリスク
  • 法務DD:契約関係、訴訟・紛争、許認可の状況
  • 労務DD:雇用契約、未払い残業代、社会保険の適正加入

病院特有の追加チェック項目

病院DDで見落としてはならないのが、医療機関固有の項目です。これらは通常の企業DDでは登場しませんが、病院の価値とリスクを左右する核心部分です。

確認項目 見るべきポイント
定款・社員構成 社員(議決権を持つ人)の構成と同意取得の見通し、役員の状況
行政届出履歴 過去の変更届・各種届出が適正になされているか、届出漏れの有無
保険医療機関指定 指定の有効性、過去の指導・監査・返還の履歴
施設基準 看護配置など届出基準を実態が満たしているか、要件割れの有無
補助金返還 受領済み補助金に返還義務が生じる条件・可能性はないか
診療報酬の適正性 算定内容が基準に合致しているか、過大算定・不正請求のリスク

とくに施設基準の要件割れや診療報酬の不適切な算定は、後から発覚すると返還や指定取消しにつながる重大リスクです。看護配置や算定要件が「届出どおりに実態として満たされているか」を、書類とヒアリングの両面から丁寧に確認する必要があります。

注意:DDは「書類が揃っているか」だけでは不十分

届出書類が形式的に整っていても、実態が伴っていないケースがあります。たとえば看護配置基準を届け出ていても、実際の勤務実態が基準を下回っていれば、過去にさかのぼって診療報酬の返還を求められる可能性があります。書面確認に加えて、現場の運用実態まで踏み込んで精査することが欠かせません。

簿外債務・偶発債務・診療報酬返還リスクとスキーム選択

病院買収で最も警戒すべきなのが、決算書に表れないリスクです。ここを軽視すると、買収後に想定外の負担を丸ごと引き受けることになりかねません。

簿外債務・偶発債務とは

簿外債務・偶発債務

簿外債務とは、貸借対照表に計上されていない債務のことです(未計上の退職給付債務、未払い残業代など)。偶発債務とは、現時点では確定していないものの、将来一定の条件が満たされると発生しうる債務です(係争中の訴訟、保証債務など)。病院では、これに診療報酬の返還リスクが加わる点が特徴です。

診療報酬の返還リスクは病院M&A特有です。過去の算定に不適切な点があった場合、買収後に指導・監査を経て返還を求められることがあり、その金額は決算書からは読み取れません。DDで返還リスクの兆候を洗い出すことが、まさにこのリスクに備えるための作業です。

スキームによってリスクの引き継ぎ範囲が変わる

重要なのは、選ぶスキームによって「これらのリスクをどこまで引き継ぐか」が変わることです。

  • 出資持分譲渡・合併:法人格や権利義務を包括的に引き継ぐため、簿外債務・偶発債務も原則として承継します。許認可は引き継ぎやすい反面、隠れた負債まで抱え込むリスクがあります。
  • 事業譲渡:譲り受ける資産・負債を個別に選べるため、承継しない負債を切り離しやすく、簿外債務・偶発債務を遮断する効果が期待できます。一方で、保険医療機関指定などの許認可は原則として取り直しが必要になります。

つまり、リスク遮断を重視するなら事業譲渡、許認可の円滑な承継を重視するなら出資持分譲渡や合併、というトレードオフがあります。DDで判明したリスクの大きさを踏まえ、どこまでを遮断すべきかを見極めてスキームを設計することが、病院買収の肝になります。

合併を選ぶ場合の手続き

合併は、合併契約の締結後、社員総会での総社員の同意、都道府県知事の認可(知事は都道府県医療審議会の意見を聴く)、財産目録・貸借対照表の作成、債権者保護手続き(異議申出の公告・催告。期間は2ヶ月を下れない)を経て、合併の登記により効力が発生します。行政認可を伴うため、一定の期間を要する点に留意が必要です。(出典:医療法、厚生労働省通知「医療法人の合併及び分割について」平成28年)

価格への反映も忘れずに

DDで発見したリスクは、買収価格の交渉材料にもなります。病院の企業価値は、時価純資産に営業権(のれん)を加える方法などで評価されるのが一般的で、中小病院では時価純資産+営業権の考え方が広く使われます。ここに、病床機能・稼働率、施設基準、診療報酬構成、医師・看護師の確保状況、行政リスク(指導・返還歴)といった病院特有の要素が加味されます。具体的な金額や倍率は案件ごとに大きく異なるため、専門家とともに個別に評価することが前提です。

買収後のPMI(統合プロセス)

契約が成立しても、それはゴールではなくスタートです。買収後の統合プロセス(PMI)がうまくいかなければ、期待した効果は得られません。PMIの基本的な考え方はPMIとは何かを解説した記事で詳しく解説していますが、病院ならではの論点を押さえておきましょう。

理事会・ガバナンスの再構成

医療法人では、理事・監事といった役員体制の再構成が統合の第一歩です。新しい経営方針を実行できる体制を整えつつ、社員構成の変更や定款の見直しなど、法人ガバナンスを買い手の方針に沿って再設計します。

電子カルテ・システムの統合

複数施設を運営する場合、電子カルテや医事会計システムの統合は避けて通れません。ただし拙速な統合は現場の混乱を招くため、優先順位をつけて段階的に進めることが現実的です。診療報酬の算定に直結するシステムだけに、移行期のミスが返還リスクにつながらないよう慎重な設計が求められます。

職員への説明と定着

病院の価値の源泉は、医師・看護師をはじめとする職員です。買収に伴う不安から人材が流出すれば、施設基準の維持すら難しくなりかねません。買収の目的や今後の方針を丁寧に説明し、雇用条件の継続性を示すことで、職員の不安を和らげ定着を図ることが、PMI成功の鍵になります。

POINTPMIでは「ガバナンス・システム・人材」の3つを軸に統合を進めます。とくに病院では、施設基準の維持と診療報酬算定の継続性が経営の根幹に直結するため、拙速な変更は避け、現場を巻き込みながら段階的に進めることが重要です。

よくある質問

病院は株式譲渡で買収できますか

できません。医療法人は非営利法人で株式が存在しないため、株式譲渡・株式交換・株式移転は使えません。採れる主なスキームは、出資持分譲渡(+社員・役員の交代)、合併、事業譲渡の3つです(出典:医療法)。対象法人が「持分あり」か「持分なし」かによって、選べる手法が変わります。

簿外債務や診療報酬の返還リスクはどう防げばよいですか

まずは病院特有の項目まで踏み込んだデューデリジェンスでリスクを洗い出すことが基本です。そのうえで、リスクが大きい場合は負債を個別に選別できる事業譲渡を選ぶなど、スキームによって遮断を図る方法があります。発見したリスクは買収価格の交渉にも反映します。

病院DDで最も見落としやすい項目は何ですか

施設基準の要件割れと、診療報酬算定の適正性です。届出書類が形式的に整っていても、看護配置などの実態が基準を満たしていなければ、後から返還を求められる可能性があります。書面だけでなく現場の運用実態まで確認することが重要です。

合併はどれくらいの期間がかかりますか

合併は都道府県知事の認可(知事は都道府県医療審議会の意見を聴く)や、2ヶ月を下れない債権者保護手続きなどを伴うため、一定の期間を要します(出典:医療法、厚生労働省通知「医療法人の合併及び分割について」平成28年)。具体的な所要期間は案件によって異なるため、スケジュールには余裕を持たせることをおすすめします。

まとめ

病院買収は、医療法人の非営利性と数多くの許認可という特殊性ゆえに、一般企業の買収とは進め方が根本的に異なります。成否を分けるのは、財務・税務・法務・労務という基本のDDに加え、定款・社員構成、行政届出履歴、保険医療機関指定、施設基準、補助金、診療報酬の適正性といった病院特有の項目まで踏み込んで、簿外債務・偶発債務・診療報酬返還リスクを洗い出せるかどうかです。

そして、洗い出したリスクの大きさに応じて、リスクを遮断できるスキーム(事業譲渡など)を選ぶか、許認可の承継を優先するスキーム(出資持分譲渡・合併)を選ぶかを見極めることが重要です。買収後は、ガバナンス・システム・人材を軸としたPMIを段階的に進め、施設基準と診療報酬算定の継続性を守ることで、はじめて買収の効果が実を結びます。

病院買収は専門性が高く、一つの判断ミスが大きな損失につながりかねません。病院M&Aの全体像は病院M&Aの専門ページで詳しく解説しています。CUCAPは病院・クリニック・介護分野に特化したM&A仲介会社として、DDからスキーム設計、PMIまで一貫してサポートします。病院の買収・売却をご検討の際は、まずは無料相談までお気軽にお問い合わせください。

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