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ホスピス型住宅の収益構造|医療保険+介護保険のダブル報酬の仕組み

「ホスピス型住宅は儲かる」という言葉を、M&Aや新規参入の検討過程で一度は耳にした経営者の方も多いのではないでしょうか。末期がんや難病の方を受け入れる住宅型有料老人ホーム(またはサービス付き高齢者向け住宅)は、一般的な高齢者施設とは異なる収益構造を持ち、近年、介護・医療業界で注目を集めてきました。

しかしその収益構造を正確に理解しないまま「高収益」というイメージだけで投資判断を下すことは、非常に危険です。とりわけ2026年6月からの訪問看護の診療報酬引き下げは、ホスピス型住宅の収益前提を根本から見直す必要がある重大な制度改定です。

この記事では、ホスピス型住宅の収益がどのような仕組みで成り立っているのか、なぜ「高収益」と言われてきたのか、そしてその持続性にどのような疑問符がついているのかを、一次情報に基づいて定性的に解説します。M&A・投資判断における収益前提の見直しについても触れます。

POINTホスピス型住宅の収益は「介護保険(施設の介護)」と「医療保険(訪問看護)」の2本柱です。とくに末期がん・難病等では特別訪問看護指示書等により頻回訪問が可能で、これが高収益の源泉とされてきました。ただし2026年6月から訪問看護の診療報酬が大幅に引き下げられることが決定しており(出典:厚生労働省、共同通信報道)、従来の収益モデルは見直しを迫られています。

ホスピス型住宅の収益は「2本柱」で成り立つ

ホスピス型住宅の収益構造を理解する第一歩は、収益が2つの異なる公的保険制度から生まれているという点を押さえることです。

ホスピス型住宅とは、末期がん・難病等で回復が見込めないと医師に診断された方が入居する住宅型有料老人ホーム(またはサ高住)で、併設の訪問看護ステーションから医療保険で手厚い訪問看護を提供する形態を指します。入居期間の制限は原則ありません。

1本目:介護保険による収益

入居者は要介護・要支援の認定を受けているケースが多く、施設内で提供される介護サービスや、居宅サービスとしての各種介護サービスが介護保険から給付されます。これは一般的な高齢者向け住宅と共通する収益の柱です。

2本目:医療保険による訪問看護の収益

ホスピス型住宅を他の施設形態と決定的に分けるのが、この2本目の柱です。併設または連携する訪問看護ステーションが、医療保険を使って訪問看護を提供します。末期がんや難病等の状態にある入居者に対しては、この訪問看護が手厚く(1日複数回・複数名訪問等)行われることが制度上可能となっており、ここが収益上の大きな特徴になっています。

ホスピス型住宅

末期がん・難病等で回復が見込めないと医師に診断された人が入居する住宅型有料老人ホーム(またはサ高住)。併設の訪問看護ステーションから医療保険で手厚い訪問看護(1日複数回・複数名訪問等)を提供する点が特徴で、入居期間の制限は原則ありません。事業構造は「住宅(有料老人ホーム/サ高住)×介護指定×訪問看護(医療)×看護人材」の複合体です。

事業構造がこのように複合的であるため、収益の仕組みも「介護」と「医療」という異なる制度をまたいで組み立てられています。この二重構造こそが、ホスピス型住宅の収益を理解するうえでの出発点です。ホスピス領域のM&Aの全体像については ホスピスM&Aのハブページ もあわせてご覧ください。

医療保険の訪問看護が「高収益の源泉」とされてきた理由

「ホスピス型住宅は儲かる」と語られるとき、その収益の中心にあるのは介護保険ではなく、医療保険による訪問看護です。なぜ医療保険の訪問看護が高収益の源泉とされてきたのか、その仕組みを制度面から見ていきましょう。

特別訪問看護指示書による頻回訪問

通常、医療保険による訪問看護には一定の回数制限があります。しかし、末期がんや急性増悪などの状態にある方については、医師が特別訪問看護指示書を交付することで、一定期間、頻回の訪問看護が可能になります。ホスピス型住宅の入居者は末期がん・難病等の方が中心であるため、この頻回訪問の対象になりやすいという特徴があります。

介護保険の支給限度額の「枠外」であること

もう一つの重要なポイントは、末期がん・難病等の一定の疾病に該当する場合、訪問看護が介護保険ではなく医療保険から給付されるという点です。介護保険には要介護度ごとに1か月あたりの支給限度額(区分支給限度基準額)が定められていますが、医療保険による訪問看護はこの限度額の枠外で提供されます。

なぜ「枠外」が収益上重要なのか

介護保険サービスだけで手厚いケアを提供しようとすると、支給限度額という上限に早期に達してしまいます。一方、医療保険の訪問看護は限度額と別枠で提供できるため、施設としては「介護保険の枠」と「医療保険の枠」の両方を活用できます。この二重の枠の存在が、1人の入居者から得られる収益を厚くしてきた構造的な背景です(出典:ホスピス型住宅の収益構造に関する制度上の整理)。

つまり、末期がん・難病等という入居者の状態を前提に、特別訪問看護指示書等による頻回訪問と、支給限度額の枠外である医療保険訪問看護を組み合わせることが、高収益と呼ばれてきた仕組みの核心です。ただし、これはあくまで「制度が許す範囲で適正に運用された場合」の話であり、後述するとおり過剰な訪問回数による報酬稼ぎは問題視されています。

介護保険からの収益もあわせて理解する

医療保険の訪問看護に注目が集まりがちですが、介護保険からの収益もホスピス型住宅の経営を支える重要な柱です。両者のバランスを理解することが、収益構造の全体像を把握するうえで欠かせません。

施設サービス・居宅サービスとしての介護

入居者の日常生活を支える介護サービスは介護保険から給付されます。要介護度が高い入居者ほど、介護保険から給付される単位数も多くなる傾向があります。ホスピス型住宅の入居者は医療ニーズが高いだけでなく介護ニーズも高いケースが多く、介護保険による収益も一定規模で見込まれます。

住宅としての基本収入

住宅型有料老人ホームやサ高住としての性格上、家賃・管理費・食費などの利用者負担分も収益に含まれます。これは公的保険とは別の、入居者が自己負担する部分です。

収益の源泉 制度・区分 特徴
訪問看護 医療保険 末期がん・難病等で頻回訪問が可能。支給限度額の枠外。高収益の源泉とされてきた
施設の介護 介護保険 要介護度に応じた施設・居宅サービス
住宅の運営 利用者負担 家賃・管理費・食費等の自己負担分

このように、ホスピス型住宅の収益は「医療保険(訪問看護)」「介護保険(施設の介護)」「住宅としての基本収入」の3つの層で構成されています。なかでも医療保険の訪問看護がキャッシュフロー上のインパクトが大きいとされ、その部分が制度改定の影響を最も強く受ける点に注意が必要です。

なぜ「高収益」と言われるのか、その持続性への疑問

ここまで見てきた仕組みを踏まえると、「なぜホスピス型住宅が高収益と言われるのか」が見えてきます。しかし同時に、その収益が本当に持続可能なのかという疑問も浮かび上がってきます。

高収益と言われる背景

背景には、医療ニーズの高い入居者を対象とすることで、介護保険と医療保険の両方の枠をフル活用できるという構造があります。多死社会の進行も追い風とされてきました。死亡場所の割合を見ると、2023年時点で病院・診療所が65.7%、自宅が17.0%、介護施設等が15.5%となっており(出典:厚生労働省「人口動態統計」)、看取りの場が施設や在宅へと広がりつつあります。後期高齢者人口は2025年に約2,180万人に達するとされ(出典:厚生労働省等)、看取りニーズそのものは今後も拡大が見込まれます。

こうした需要環境を背景に、訪問看護ステーション数は2024年4月時点で稼働17,329ヶ所と過去最高になり、前年比で1,632ヶ所・12.3%増と急増しています(出典:全国訪問看護事業協会)。有料老人ホームは2024年3月時点で16,543施設・定員約64.6万人、サービス付き高齢者向け住宅は8,294施設・約28.7万戸(うち約96%が有料老人ホームにも該当)に達しています(出典:厚生労働省「社会福祉施設等調査」等)。

持続性への疑問

しかし、「高収益」の源泉が医療保険の訪問看護に強く依存していることは、そのまま制度改定リスクの大きさを意味します。診療報酬は数年ごとに改定され、政策的な狙いによって特定のサービスの単価や算定要件が引き下げられることがあります。ホスピス型住宅の収益が診療報酬という「政策で動く変数」に大きく依存している以上、その持続性には構造的な不確実性がつきまといます。

そして実際に、次章で述べるとおり、2026年6月から訪問看護の診療報酬引き下げが決定しています。過去の高収益をそのまま将来に引き延ばす前提は、もはや通用しません。

【重要】2026年6月からの訪問看護 診療報酬引き下げと収益への影響

ホスピス型住宅の収益を語るうえで、2026年時点で最も重要な制度変更が、訪問看護の診療報酬引き下げです。これは従来の収益モデルの前提を直接揺るがすものであり、経営者・投資家として必ず把握しておくべき事項です。

2026年6月から訪問看護の診療報酬が大幅に引き下げられます

ホスピス型住宅での過剰回数の訪問看護による報酬稼ぎが問題視され、2026年6月から訪問看護の診療報酬が大幅に引き下げられることが決定しました(出典:厚生労働省、共同通信報道)。これは高収益の源泉であった医療保険の訪問看護部分に直接影響するため、従来の収益予測・企業価値評価の前提が大きく変わります。過去の実績をそのまま将来に引き延ばした事業計画は、下方修正を迫られる可能性があります。

「過剰回数の是正」という政策の狙い

今回の引き下げの背景にあるのは、一部のホスピス型住宅で見られた過剰な訪問回数による報酬稼ぎへの是正という政策的意図です。制度が許す枠を最大限に使うビジネスモデルが行き過ぎと判断された、というのが大きな流れです。したがって、これは一時的な単価調整というよりも、収益モデルそのものへの構造的な見直し圧力と捉えるべきです。

収益への影響をどう考えるか

具体的な影響額は施設ごとの入居者構成や訪問実態によって大きく異なるため、一律に語ることはできません。しかし、医療保険の訪問看護に収益を強く依存してきた施設ほど、影響が大きくなる可能性が高いと考えられます。逆に、介護サービスの質や住宅としての価値、地域での看取り機能といった「診療報酬に過度に依存しない強み」を持つ事業者は、相対的に影響を受けにくいと考えられます。

コンプライアンス:訪問看護指示書をめぐる不適切要求の問題

収益構造の見直しと並んで、いま強く問われているのがコンプライアンスです。とりわけ訪問看護指示書をめぐる不適切な運用は、事業の存続そのものを脅かすリスクとして注目されています。

医師の約4割が不適切な要求を受けた経験

訪問看護指示書に虚偽病名や過剰な複数回訪問の指示を記載するよう、不適切な要求を受けた経験がある医師が約4割にのぼるという調査結果があります(出典:日本在宅医療連合学会)。これは、一部の事業者が収益を優先するあまり、医師に対して不適切な指示書の作成を求めていた実態を示すものです。

不適切な指示書要求は重大なコンプライアンス違反です

虚偽病名の記載や、医学的必要性に基づかない過剰な訪問回数の指示を医師に求める行為は、診療報酬の不正請求につながり、指定取消・報酬返還などの重大な行政処分リスクを伴います。事業の継続そのものを危うくするだけでなく、M&Aにおいては買い手が最も警戒する論点の一つです。

適正運営こそが持続的な収益の前提

制度改定と不適切運用への監視強化が進むなか、これからのホスピス型住宅経営で問われるのは「制度の枠をどこまで使えるか」ではなく「医学的必要性に基づいた適正なサービスを、いかに持続的に提供できるか」です。適正運営は、コンプライアンスの問題であると同時に、将来の収益を守るための経営戦略そのものでもあります。

M&A・投資判断への示唆:収益前提を見直す

以上を踏まえると、ホスピス型住宅のM&Aや新規投資の判断において、従来の「高収益」を前提とした評価は通用しなくなりつつあります。収益前提そのものを見直す必要があります。

過去の実績をそのまま将来に延ばさない

2026年6月の診療報酬引き下げにより、過去の収益実績はそのまま将来の収益を保証しません。企業価値評価では、制度改定後の収益水準を前提に事業計画を引き直すことが不可欠です。改定前の高収益をベースにした売却希望価格と、改定後の実力値との間には、ギャップが生じる可能性があります。

デューデリジェンスで確認すべき論点

  • 訪問看護の訪問回数・算定内容が医学的必要性に基づく適正なものか
  • 訪問看護指示書の作成プロセスに不適切な関与がないか
  • 収益が医療保険の訪問看護に過度に依存していないか(介護・住宅の収益バランス)
  • 過去に行政指導・報酬返還の履歴がないか
  • 看護人材の確保・定着の状況(訪問看護は人材が事業の生命線)

スキームと承継上の留意点

ホスピス型住宅の運営主体は株式会社が中心であるため、病院(医療法人)と異なり株式譲渡が使えるケースが多い点は実務上の特徴です。ただし介護・医療の指定の承継可否はスキームによって異なり、株式譲渡・会社分割では指定が継続しやすい一方、事業譲渡では原則として指定の取り直しが必要になります。制度改定の影響と承継スキームの両面から慎重に設計することが重要です。ホスピス領域のM&Aスキームの詳細は ホスピスM&Aハブページ で解説しています。

需要そのものは、多死社会の進行を背景に中長期的に拡大が見込まれます。悲観一辺倒になる必要はありません。重要なのは、制度改定後の適正な収益水準を前提に、診療報酬に過度に依存しない強みを持つ事業を、適正な価格で評価することです。

よくある質問

ホスピス型住宅はなぜ「儲かる」と言われてきたのですか?

末期がん・難病等の入居者に対し、介護保険(施設の介護)に加えて、支給限度額の枠外である医療保険の訪問看護を手厚く提供できるためです。特別訪問看護指示書等により頻回訪問が可能となり、1人の入居者から得られる収益が厚くなる構造が背景にあります。ただしこれは適正運営を前提とした話であり、2026年6月からの診療報酬引き下げにより前提は変わりつつあります。

2026年6月の診療報酬引き下げはどの程度の影響がありますか?

ホスピス型住宅での過剰回数の訪問看護による報酬稼ぎの是正を狙ったもので、訪問看護の診療報酬が大幅に引き下げられることが決定しています(出典:厚生労働省、共同通信報道)。影響の程度は施設ごとの入居者構成や訪問実態によって大きく異なるため一律には言えませんが、医療保険の訪問看護に収益を強く依存してきた施設ほど影響が大きくなると考えられます。

M&Aで買収を検討する際、何を最も注意すべきですか?

過去の高収益をそのまま将来に延ばさないことです。制度改定後の収益水準で事業計画を引き直すこと、そして訪問看護の算定内容や指示書作成プロセスの適正性をデューデリジェンスで確認することが重要です。不適切な指示書要求などのコンプライアンス問題は、指定取消・報酬返還につながる重大リスクです。

これからホスピス型住宅事業に将来性はありますか?

需要面では、後期高齢者人口が2025年に約2,180万人に達し(出典:厚生労働省等)、看取りニーズの拡大が見込まれます。一方で収益面は診療報酬改定の影響を受けます。診療報酬に過度に依存せず、介護の質・住宅価値・地域の看取り機能で選ばれる事業者には、引き続き将来性があると考えられます。

まとめ

ホスピス型住宅の収益は、介護保険(施設の介護)と医療保険(訪問看護)のダブル報酬で成り立っており、とくに末期がん・難病等で支給限度額の枠外となる医療保険の訪問看護が高収益の源泉とされてきました。

しかし、2026年6月からの訪問看護の診療報酬引き下げ(出典:厚生労働省、共同通信報道)と、訪問看護指示書をめぐる不適切要求の問題(医師の約4割が経験。出典:日本在宅医療連合学会)は、この収益モデルの前提を大きく揺るがしています。M&A・投資判断においては、過去の実績をそのまま将来に延ばすのではなく、制度改定後の適正な収益水準を前提に、コンプライアンスと収益の持続性を見極めることが不可欠です。

CUCAP(病院・クリニック・介護のM&A仲介)では、制度改定の影響を織り込んだ収益前提の見直しや、適正性を重視したデューデリジェンスのご相談を承っています。ホスピス型住宅の売却・買収・事業承継をご検討の際は、ぜひ 無料相談フォーム よりお気軽にお問い合わせください。制度と実務の両面から、貴社の意思決定をサポートいたします。

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