代表取締役メッセージ

CUCの価値の源泉は「人」。
認め合い、高め合うカルチャーが
医療という希望を創る。

濵口 慶太

3年以上にわたり社会を停滞させた新型コロナウイルス感染症は、日本では2023年5月に感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)上の5類感染症へ移行したことで収束したかのように思われました。しかし、感染の波は未だ継続的に押し寄せ、医療現場では予断を許さない状況が続いています。さらに、2022年2月に突如始まったロシアによるウクライナ侵攻は、人々を恐怖に陥れるだけでなく、世界的な資源高騰やエネルギー危機を引き起こし、コロナ禍で傷ついた世界経済を再び悪化させました。日本の医療・介護業界にもその影響は例外なく訪れています。光熱費や食材、医療材料等の価格高騰が経営に与える影響は大きく、多くの医療機関や介護施設では何らかの対応を迫られています。医療現場は今、かつてない難局にあると言えます。そのような状況の中で、私たちがこの一年間、経営の最大テーマとして取り組んだのは、「理念浸透」と「標準化の進化」の2つのキーワードでした。

創業9周年を迎える2023年8月に開催された「CUC Partners AWARD」の様子

創業9周年を迎える2023年8月に開催された「CUC Partners AWARD」の様子

厳しい状況にこそ共通目的が必要。今が「医療という希望を創る。」を実現するとき

私が理念について改めて考えるきっかけとなったのは2020年から始まったコロナ禍です。世界中の誰もが感染症の恐怖に怯えるなか、果敢に患者様に向う医療従事者の心身の負担は計り知れず、多くの方が疲弊した壮絶な約3年間でした。疲弊していく従業員や医療機関職員の方々を目の当たりにし、「私たちは本当に医療という希望を創ることができているのだろうか」と自問自答する日々を過ごしました。そして、行き着いた結論。それは、希望の創り手である私たち自身がいきいきと働くための「組織文化」の重要性と、目的であり共通の言語でもある「理念」が不可欠であるということでした。
 2021年4月、CUCグループと経営をご支援する医療機関が共通して目指す理念として「CUC Partners Philosophy」(※)を策定し、経営の判断軸、人材育成の指針、日々の行動規範として、すべての組織に浸透するよう努めてきました。2023年8月現在、少しずつですが着実に組織における会話や行動は変わり、模範とすべき希望の創出事例も生まれ始めています。

理念を絵空事にしないために、文化を創るために私たちが取り組むこと

理念を浸透させていくために、現在では大小さまざまな施策に取り組んでいます。その中でもCUC パートナーズのリーダーに求める行動や考え方をまとめたオリジナルの教科書「リーダーの約束」は特徴的です。その中には以下のような一節があります。
『作成に協力していただいたリーダーたちも、就任当初からうまくいっていたわけではありません。みなさんと同じくはじめは悩み苦しみ、試行錯誤を繰り返す中で「コツ」のようなものを掴みとったことで、いまの姿があります。』
 私たちの歴史は、医療課題に真っ向から向き合い、挑戦と失敗を繰り返した試行錯誤の連続です。その中で培ったリーダーのあり方をまとめたこの教科書には、幾多の変化に向き合ってきた経験値が詰まっていると言えます。
 また、2022年8月から、私たちの使命「医療という希望を創る。」を高いレベルで体現した事例を共有し、称えあうCUC Partners AWARDを年に一度開催しています。患者様の希望、医療従事者の希望、社会の希望をいかに生み出してきたのかを発表する場は、CUC Partners Philosophyが最も強く表されている一日です。希望の創りかたをさまざまな形で学びながら、CUCパートナーズの仲間たちは日々、自分自身の現場に向き合っています。

※「CUC Partners(パートナーズ)」とは、CUCグループと経営を支援する医療機関を合わせた総称

患者視点の医療を目指して取り組む「標準化」と、その先の「現場力向上」
「ムリ・ムダ・ムラ」を省き本質的な価値を生み出す仕事に向き合う

患者視点の医療を目指して取り組む「標準化」と、その先の「現場力向上」

 この一年間に注力したもう一つのテーマが「標準化の進化」です。
 患者視点の医療を持続可能な方法で提供し続けるためには、個人の経験やスキルに依存した業務をなくし、標準化する必要があります。入職者が先輩の背中だけを見て学ぶような属人的なやり方を極力減らし、タスクシフトやデジタル化を進めることで、自律的な現場の改善力を高めることができると考えています。しかし、医療業界における標準化は一筋縄ではいかない難題です。
 「患者様の置かれる状況は千差万別でマニュアル化が難しい」「専門分野が細分化されているため情報共有の難易度が高い」といった声が現場から多く寄せられ、標準化が思うように進みませんでした。私たちも、過去に何度も挑戦しながら頓挫を繰り返した苦い経験がある標準化への取り組みですが、コロナ禍を経てその重要性をさらに強く認識し、改めて挑戦すべく2022年度からグループ全社を挙げたプロジェクトとして立ち上げました。
 どのような業務も分析すると必ず「できて当たり前」「これは全員が知っているべきこと」という基礎部分が明確になります。しかし多くの医療現場ではこうした基本的な情報がマニュアル化されておらず、新しい担当者が誰に尋ねればいいかわからず理解に時間がかかり、同じ失敗を繰り返してしまう、といったムダや重複が生まれています。私たちはまず、この基礎部分に焦点を当て、業務の可視化に取り組み、業務マニュアルとして形にしていきました。医療スタッフの採用プロセス、集患ノウハウ、各種施設の運営オペレーションなど、さまざまなテーマについて完成したマニュアルの総量は2023年8月現在1,126テーマ、12,537ページ(ページ数はA4版ドキュメント1ページ換算)に達しました。

「ムリ・ムダ・ムラ」を省き、本質的な価値を生み出す仕事に向き合う

 標準化に取り組む最大の効果は、ムリ・ムダ・ムラを省くことで生まれた時間を、お客様、地域や職種、施設にとって本当に必要な業務に充てることができるようになることです。そうすることで、新しいアイデアや仕組みを考えるなど、本質的で創造的な業務に集中できるようになります。従業員が日々の業務に追われてばかりでは、使命である「医療という希望を創る。」を実現する挑戦は生まれません。理念浸透と標準化は切り離せない関係にあります。
 標準化のプロジェクトは一時的な取り組みではなく、導入・定着・改善という継続的なサイクルを回しながら、さらに上を目指しています。現在は「現場力向上プロジェクト」へと進化し、完成したマニュアルを活用したスタッフ育成の仕組みづくりや、さまざまな好事例のライブラリー化、標準化の次のステップである業務改善にも取り組んでいます。「現場力」こそが我々の競争優位であり、これからも現場力向上を通じて、患者様への提供価値を高め続けていきます。

理念実現ロードマップ

理念実現ロードマップ
濵口 慶太

CUCの価値は「人」から生まれる人の力を引き出す経営に挑戦する

 2022年度は「医療という希望を創る。」を実現するための価値創造モデルやマテリアリティを策定し、サステナビリティレポートを通じて発表しました。その後の1年間では前述の「標準化」を含めた「サービス開発」「デジタル活用」など、事業戦略における重要テーマの位置関係を『理念実現ロードマップ』として整理し、CUCパートナーズが、使命を実現するための大きな地図を描きました。(左ページ参照)
 医療業界は、スポーツチームに例えられることがあります。現場の最前線にいる医師や看護師、介護士などの専門職の皆さんはまさにスポーツ選手。その選手たちが最大限に活躍できる環境を整え、お客様である患者様をたくさん集め、素晴らしい取り組みやエピソードを称賛し合う舞台をつくる。すべての役割の人々がそれぞれの役割を果たし、互いに高め合うカルチャーを持った組織が理想です。
 私たちが人づくり、組織づくり、文化づくりに力を注いでいるのも、これらの活動がすべて人の力によって成し遂げられるものだからです。医療に向き合う人々の可能性を信じ、夢や理想を追い求める一人ひとりの力を引き出してこそ「医療という希望を創る。」という使命が実現し、患者視点の医療をひとりでも多くの方に届けることができると信じています。

CUCが次の新しいステージに向かうために

 こうした働く仲間たちへの想いをこめて、2023年夏、「CUC Partners Promise」を策定しました。『一人ひとりが働きがいを感じ、自分の夢や理想に挑戦できる環境を実現する。』という、理念に向き合う仲間たちを経営陣がどう支えるかを約束する宣言文です。CUCパートナーズで働く仲間たちが、いきいき働くことができる組織文化をつくるために、今後さまざまな人事施策やコミュニケーション施策を検討・実施していきます。
 2023年6月に東京証券取引所グロース市場への上場を果たし、新たなステークホルダーの方々とともにこれからの成長の道を歩んでいきます。今後は、ホスピス事業の日本各地への展開や居宅訪問看護の成長、経営支援先の医療機関数の拡大を目指すことと並行して、各地域における事業連携の活性化にも注力します。また、コロナ禍で難航していた海外展開も加速させ、アジアだけでなくアメリカでの事業展開も計画しています。「医療という希望を創る。」の実現に向けて、日本と世界の医療課題に向き合い、絶えず変化に挑戦し続けます。

2023年8月
代表取締役 濵口 慶太