日本企業のアセアン進出動向や企業連携情報、アセアン加盟国の投資環境・貿易収支・金融・政治などのニュースを掲載する『ASEAN経済通信』に掲載されました。
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日本品質の医療をリーズナブルに ベトナムに初の日系病院
ベトナムに初の日系病院「ホアンハオ桂名会」が誕生した。目指しているのは高品質でリーズナブルという、一般市民に最も求められている医療サービス。日本品質に基づく安心と信頼の病院を普及させて、ベトナムの医療を変えていく考えだ。桂名会からベトナムに赴任し代表を務めている松永弘之氏と、運営支援を担うシーユーシー(東京都中央区)のベトナム現地法人の笹森俊樹氏(マーケティング・ディレクター)に、取り組みについてきいた。
ベトナム事業の概要は――。
松永氏 医療法人の桂名会(名古屋市)が現地の医療機関「ホアンハオ」を買収し、ホーチミン市と隣のビンズオン省で2つの病院と3つのクリニックの展開を始めた。ホーチミン市に2つのクリニック、ビンズオン省に2つの病院と1つのクリニックがそれぞれある。経営を引き継いだ後は「ホアンハオ桂名会」と名称変更した。運営する病床数は2つの病院で180床。ビンズオン省の本部病院には外来患者が1日1500~1800人あり、他の病院とクリニックを合わせると3000人、年間で約100万人の外来患者を診ている。医師や看護師、スタッフ等の従業員は711人体制になる。本部病院の隣接地には新病院の用地を取得しており、2年半後の完成を目指して建設を計画中だ。ハノイのほうでも今後、クリニックを開設したり他の医療機関との連携を図っていきたい。桂名会が考える海外展開の背景としては、日本は超高齢社会になり、2040年以降は若い働き手が極端に少なくなり、市場として縮小する。そうしたなか国内での取り組みだけでなく、海外展開すべきと判断した。ベトナムは人口が約1億人、ホーチミン市だけで1000万人近く、ビンズオン省では300万人あり、人口増加とともに医療ニーズが高まっている。
現地で取り組む医療課題は――。
松永氏 ベトナムの医療は、私立の高額な病院と、公立で低額ながら機能的に好ましくない病院とに二極化している。この状況に対して、医療水準の高さを維持しながら価格を抑えたサービスが提供できるよう取り組んでいく。また、ベトナムでは食生活の問題もあり糖尿病や高血圧といった成人病の比率が高く、大気汚染による気管支系の疾患が多いのが特徴だが、対応が後手に回っている。そうした医療水準と医療ニーズがマッチしていないなか、課題を解決していくことが使命だと考えている。
どのように課題解決を図るか――。 松永氏 ベトナムでは人件費が低いとされるが、物価水準で考えると必ずしも安いわけではない。そうしたなかで、IT化を進めることで無駄な人件費をなくしていきたい。日本で病院やクリニック、人工透析クリニックなどの経営支援を行っているシーユーシーから、そのノウハウを支援してもらい効率化を図っていく。IT化などを進めて人件費を抑えて、リーズナブルな価格でありながら高い水準の医療サービスを提供していく。さらに、特定の診療科目を専門化して、日本人医師による診察や手術など高度な医療サービスを提供していく計画。日本人医師は現地のライセンスを取得する必要があり、最低でも約8カ月は要する見込みだが、すでに手続きを進めているところだ。
企業向けに健康診断サービスも提供している――。
笹森氏 ベトナムでは2016年に健康診断が法律で規定され、一般的な企業では1年に1回、危険な業務に従事する労働者については2回受けることが義務付けられた。従来は法による規定がなかったため、実際の健診を行っていない企業が診断書をお金で買ったり、健康診断をしたとしても、例えば胸部のX線検査を行う際にボタン付きのシャツを着て実施するなど、実態として意味がないものが多かった。また、ある日本人経営者が試験的にベトナムの病院で健診してみたところ、日本ではいつも異常値となる項目がベトナムでは正常値として診断されたという。日本人駐在員や在住者も含めて、適切な健康診断や医療サービスを求めている。そうしたニーズにしっかりと対応していきたい。
ホアンハオ桂名会の健診の強みは――。
笹森氏 健康診断にあたるスタッフには専門のトレーニングを実施するとともに、診断結果は日本人医師と看護師がきちんと検証している。ポイントは、健診後のコンサルテーションだ。直近で、日系の通信大手のスタッフ190人ほどを健診したところ、20代で糖尿病を発病しているケースがあったほか、糖尿病の予備軍も50%に上るとの結果が出た。動脈硬化が非常に多く、糖尿病や肝機能、腎臓の疾患も見られたが、それらに対応するプログラムも組んでいる。日本でもそうだが、健診してリポートが戻ってきて終わりというケースがほとんどという状況のなか、健診リポートを受診者に返却して、後日あらためて時間を設けて企業を訪問して、異常値のあった対象者に医師とともにコンサルテーションを行う。従業員からも健康に関する不安を述べてもらい、医師からは生活上の注意点などのアドバイスを行う。また、経営者と人事担当マネジャー向けには健診の総括リポートを提出するため、企業は従業員の健康状況を把握でき、今後の対策を打ちやすい。ベトナムでは転職する文化が根強いため、健診が福利厚生の一環としても評価される。
丁寧な健診にはコストがかかるのでは――。
笹森氏 一般に工場労働者の健康診断の場合は、生産ラインを一部停止して病院に赴いて実施するケースが多い。そうした企業向けに、日本のオフィスなどで見られるような健診バスによるサービスを行う。ベトナムの平均賃金から算出すると、そのコスト効果は明らか。生産ラインを止めて病院に訪問する時間等を勘案すると、大幅な時間と費用の削減になる。出張健診は企業が業務の手を止めずにできるため、経営者の視点としてもメリットがある。
さらなるサービス向上に向けて――
笹森氏 将来的には、健診のデータをスマホのアプリで労働者が確認できるようにしたり、人事担当マネジャーもアプリやパソコン画面で確認できるようなシステムづくりをしていく。ベトナムは人口も増えていて妊婦も多くいるため、母子手帳のアプリなども開発したい。病気にかかる前から健康管理を行えるよう、健康面をトータルにサポートできる体制を作っていくことが目標だ。新規進出企業に対しては、現地の健診のルールといった医療情報のサポートを行っている。日本の高品質な医療を、ベトナムだけでなく周辺のアジア圏も含めて展開していきたい。(20/3/2)(M)