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ホスピス・介護M&Aの流れ|指定承継とデューデリジェンスの実務

「介護・ホスピス事業のM&Aは、通常の会社の売買と何が違うのか」「指定はそのまま引き継げるのか、取り直しになるのか」——譲渡を検討し始めた経営者の方から、最も多く寄せられるのがこの疑問です。介護・ホスピス型住宅のM&Aは、一般的な株式譲渡の手続きに加えて、介護保険・医療保険の「指定」の承継という業界特有の論点が絡み合うため、進め方を誤ると想定していたスケジュールや価格が大きくブレてしまいます。

結論から言えば、株式会社が運営する事業を株式譲渡で引き継ぐ場合、法人格が変わらないため指定は継続しやすく、比較的スピーディーに進みます。一方、事業譲渡で一部の拠点だけを切り出す場合は、原則として指定を取り直す必要があり、時間も手続きも増えます。この「スキームの選び方」と「デューデリジェンス(DD)で何を見るか」が、介護・ホスピスM&Aの成否を分けます。

この記事では、ホスピス・介護M&Aの全体像から、検討開始からクロージング・PMIまでの流れ、業界特有のDD項目、指定手続き、そして2026年6月の訪問看護報酬改定という直近の重要論点まで、実務目線で整理します。

POINT株式会社運営の介護・ホスピス事業は株式譲渡なら指定を継続しやすくスピーディー、事業譲渡は原則指定の取り直しが必要。DDでは介護・医療の指定状況、加算算定の適正性、人員配置基準、訪問看護のレセプト、キーパーソン人材が重点論点。2026年6月の訪問看護報酬改定は企業価値評価の前提を変えるため、必ず織り込む。

ホスピス・介護M&Aの全体像とスキームの違い

介護・ホスピス事業の運営主体は株式会社が中心である点が、医療法人が運営する病院M&Aとの大きな違いです。株式会社であれば株式譲渡が使えるため、法人格を維持したまま経営権だけを移すことができます。この構造の違いが、手続きのスピードとリスクの所在を大きく左右します。

株式譲渡ベースなら指定は継続しやすい

株式譲渡では、売り手法人の株主が買い手に株式を売却するだけで、法人そのものは存続します。介護保険事業所の指定や訪問看護ステーションの指定、有料老人ホームの設置届などは法人に紐づいているため、法人格が変わらなければ原則として指定関係はそのまま継続します。契約や許認可を個別に巻き直す必要が少なく、相対的にスピーディーに進められるのが利点です。

事業譲渡は原則として指定の取り直し

一方、複数拠点のうち一部の事業所だけを切り出して譲渡する事業譲渡の場合、指定は法人単位で紐づいているため、買い手側で新たに指定を取り直すのが原則です。会社分割というスキームもあり、この場合は労働契約承継法などの手続きが関わります。どのスキームを採るかで、指定手続き・従業員の承継・スケジュールがまるごと変わるため、初期段階でのスキーム設計が極めて重要です。

ホスピス型住宅の収益構造

ホスピス型住宅は、末期がん・難病等で回復が見込めないと医師に診断された人が入居する住宅型有料老人ホーム(またはサ高住)で、併設の訪問看護ステーションから医療保険で手厚い訪問看護を提供する形態です。収益は介護保険(施設の介護)と医療保険(訪問看護)のダブル構造で、末期がん・難病等では特別訪問看護指示書等により頻回訪問が支給限度額の枠外で可能な点が高収益の源泉とされてきました。この構造を理解しておくことが、企業価値評価とDDの前提になります。

介護・ホスピス業界全体では、高齢化・多死社会の進行、経営者の高齢化と後継者不在、人材確保難を背景に再編が進んでいます。垂直統合(在宅→有料老人ホーム/サ高住→介護医療院・病院)や水平統合(多拠点ドミナント)の動きがあり、大手グループやファンド、異業種の参入も見られます。業界横断の背景はホスピス・介護M&Aの解説ハブもあわせてご確認ください。

介護・ホスピスM&Aの流れ(10ステップ)

スキームによって細部は変わりますが、株式譲渡を軸とした標準的な流れは次のとおりです。

  1. 検討・企業価値評価:譲渡の目的・希望条件を整理し、事業内容を評価。介護・医療の指定状況や収益構造を踏まえて価値を見積もる。
  2. マッチング:ノンネームシート等で候補先を打診し、意向のある相手を絞り込む。
  3. 秘密保持契約(NDA):具体的な情報開示の前に締結し、情報漏えいを防ぐ。
  4. 情報開示:財務・人員・指定・契約関係などの資料を提示し、相手が検討できる状態にする。
  5. 基本合意:おおよその条件・スケジュール・独占交渉権などを書面で確認する。
  6. デューデリジェンス(DD):買い手が財務・法務・労務・事業面を精査。介護・ホスピスでは指定や加算の適正性が重点。
  7. 最終契約:DD結果を踏まえて最終条件を確定し、株式譲渡契約等を締結する。
  8. 指定手続き(承継届 or 新規指定):スキームに応じて、指定権者へ承継の届出、または新規指定の申請を行う。
  9. クロージング:株式・対価の受け渡しなど、譲渡を実行する。
  10. PMI(統合):人員体制・記録システム・入居者/家族/職員への説明など、譲渡後の統合を進める。

デューデリジェンス(DD)とは

買収対象の事業について、買い手が財務・法務・労務・事業などの観点からリスクや実態を精査する調査のことです。DDの結果は最終的な価格や契約条件、表明保証の内容に直結します。基本的な考え方は「デューデリジェンスとは」の記事で詳しく解説しています。

介護・ホスピス特有のデューデリジェンス項目

一般的な財務・法務DDに加えて、介護・ホスピスM&Aでは業界特有の論点を丁寧に確認する必要があります。ここを見落とすと、譲渡後に加算の返還や指定の問題が表面化し、想定した収益が実現しないリスクがあります。

指定・許認可まわり

  • 介護保険・医療保険の指定状況(指定の有効期限、更新状況、指定権者)
  • 有料老人ホームの設置届、サービス付き高齢者向け住宅の登録状況
  • 過去の実地指導・監査の履歴、報酬の返還歴や行政指導の有無

報酬・レセプトの適正性

  • 加算算定の適正性(算定要件を満たした運用になっているか、根拠記録は整っているか)
  • 訪問看護のレセプト内容(訪問回数・複数名訪問・特別訪問看護指示書の運用が適正か)
  • 人員配置基準の充足(配置基準を満たす人員が実際に確保されているか)

注意:訪問看護指示書の適正性

訪問看護指示書に虚偽病名や過剰な複数回訪問の指示を記載するよう不適切な要求を受けた経験がある医師が約4割との調査結果があります(出典:日本在宅医療連合学会)。ホスピス型住宅では収益構造上、頻回訪問の適正性がとりわけ重要な論点となるため、DDで指示書とレセプトの整合性を丁寧に確認する必要があります。

契約・人材

  • 建物の賃貸借契約(賃料・期間・更新条件・オーナーとの関係。譲渡に伴う承諾の要否)
  • キーパーソン人材(訪問看護を支える看護師や管理者の在籍・定着状況)
  • 入居者・利用者との契約、職員の労務関係(未払い残業・社会保険加入状況など)

訪問看護ステーションは全国的に増加が続いており、2024年4月時点で稼働17,329ヶ所と過去最高を記録した一方、廃止701・休止291も過去最多となっています(出典:全国訪問看護事業協会)。数が増える中で、看護師などのキーパーソンを確保・定着できているかが、事業価値を左右する重要な確認事項です。

指定の承継 or 新規取得の手続き

DDと並行して、または最終契約後に進めるのが指定手続きです。ここはスキームによって進め方が根本的に異なります。

株式譲渡・会社分割の場合

法人格が維持される株式譲渡では、指定は法人に紐づいたまま継続するのが原則です。ただし、管理者や役員などの変更に伴う変更届が必要になるケースがあり、指定権者ごとの取り扱いを事前に確認しておくべきです。会社分割の場合も指定を継続しやすい一方、労働契約承継法などの手続きが関わります。

事業譲渡の場合

事業譲渡では、買い手側で新規指定を取得するのが原則です。新規指定は申請から効力発生まで一定の期間を要するため、クロージングのタイミングと指定の効力発生日にずれが生じないよう、指定権者との事前協議とスケジュール調整が欠かせません。空白期間が生じると、その間の報酬請求ができなくなるおそれがあります。

有料老人ホームは令和6年(2024年)3月時点で16,543施設・定員約64.6万人、サービス付き高齢者向け住宅は8,294施設・約28.7万戸(うち約96%が有料老人ホームにも該当)にのぼります(出典:厚生労働省「社会福祉施設等調査」等)。住宅の種別(有料老人ホームかサ高住か)によって届出・登録の窓口や手続きが異なるため、対象施設の種別を正確に把握することがDD・指定手続きの出発点になります。

PMI(統合)で押さえるべきポイント

クロージングはゴールではなくスタートです。介護・ホスピス事業では、譲渡後の統合(PMI)が入居者の生活とサービスの質に直結するため、丁寧な進め方が求められます。

人員体制の統合

看護師・介護職員・管理者などのキーパーソンが離職すると、指定基準の充足やサービス提供に直接影響します。処遇や役割を早期に整理し、不安を解消して定着を図ることが最優先の論点です。

記録・請求システムの統合

介護記録・看護記録やレセプト請求のシステムが売り手と買い手で異なる場合、統合の方針とスケジュールを明確にする必要があります。移行期にレセプト請求が滞らないよう、業務フローの引き継ぎを丁寧に行います。

入居者・家族・職員への説明

末期がん・難病等の入居者とその家族にとって、運営者の交代は大きな関心事です。サービスの継続性と担当者の変更有無を早い段階で丁寧に説明し、安心してもらうことが信頼維持の鍵になります。職員に対しても、方針や処遇の変更点を誠実に伝えることが定着につながります。

PMIとは

PMI(Post Merger Integration)とは、M&A成立後に行う経営・業務・人事などの統合プロセスのことです。介護・ホスピスでは人材とサービス品質の維持が特に重要になります。基本的な進め方は「PMIとは」の記事で解説しています。

実務上の注意点:2026年6月の訪問看護報酬改定

介護・ホスピスM&Aで現在もっとも注意すべき制度論点が、訪問看護の報酬改定です。ホスピス型住宅での過剰回数の訪問看護による報酬稼ぎが問題視され、2026年6月から訪問看護の診療報酬が大幅に引き下げられることが決定しています(出典:厚生労働省、共同通信報道)。

ホスピス型住宅の高収益は医療保険の訪問看護に支えられている構造があるため、この改定は収益予測と企業価値評価の前提を直接変えます。過去の実績(改定前の報酬水準)をそのまま将来に引き延ばした収益計画は、改定後の実態と乖離するおそれがあります。

注意:評価前提への織り込み

M&Aの検討・企業価値評価においては、改定後の報酬水準を前提に将来収益を見直すことが不可欠です。売り手・買い手の双方が、改定の影響を織り込んだうえで条件を協議しないと、成約後に「想定していた収益が出ない」というトラブルにつながりかねません。

あわせて、介護職員の必要数は2019年度約211万人から2025年度約243万人、2040年度約280万人へと増加が見込まれており(出典:厚生労働省推計)、人材確保の難しさは今後も続く前提で事業計画を組む必要があります。制度と人材、両面の環境変化を踏まえた検討が求められます。業界動向の全体像はホスピス・介護M&Aハブで継続的に整理しています。

よくある質問

Q. 株式譲渡なら指定は自動的に引き継がれますか?

法人格が維持されるため、指定は法人に紐づいたまま継続するのが原則です。ただし管理者・役員の変更などに伴う変更届が必要になる場合があり、指定権者ごとの取り扱いを事前に確認しておくことをおすすめします。

Q. 事業譲渡と株式譲渡、どちらを選ぶべきですか?

一概には言えません。複数拠点のうち一部だけを譲渡したい場合は事業譲渡が選択肢になりますが、指定の取り直しが原則となり手続きが増えます。法人まるごとであれば株式譲渡が指定継続の面で有利です。目的・対象範囲・スケジュールを踏まえたスキーム設計が重要です。

Q. 2026年6月の訪問看護報酬改定は、譲渡価格にどう影響しますか?

ホスピス型住宅の収益は医療保険の訪問看護に支えられている構造があるため、報酬引き下げは将来収益、ひいては企業価値評価の前提に影響します(出典:厚生労働省、共同通信報道)。改定後の水準を織り込んだ収益見通しで協議することが、双方の納得につながります。

Q. デューデリジェンスで特に重要な項目は何ですか?

介護・医療の指定状況、加算算定の適正性、実地指導・返還歴、人員配置基準の充足、訪問看護のレセプト内容、そして看護師・管理者などキーパーソンの定着状況です。これらは譲渡後の収益と指定の維持に直結します。

Q. 手続きにはどのくらいの期間がかかりますか?

案件の規模・スキーム・指定手続きの内容によって大きく異なるため、一律の期間はお伝えできません。特に事業譲渡での新規指定は効力発生まで一定の期間を要するため、早めのスケジュール設計と指定権者との事前協議が重要です。

まとめ

ホスピス・介護M&Aは、一般的な株式譲渡の流れに、介護・医療の「指定」の承継という業界特有の論点が重なる点が特徴です。要点を再掲します。

  • 株式会社運営なら株式譲渡で指定を継続しやすくスピーディー、事業譲渡は原則指定の取り直し。
  • 流れは「検討・評価→マッチング→NDA→情報開示→基本合意→DD→最終契約→指定手続き→クロージング→PMI」。
  • DDでは指定状況・加算の適正性・人員配置基準・訪問看護レセプト・キーパーソン人材が重点。
  • PMIは人員体制・記録/請求システム・入居者/家族/職員への説明が鍵。
  • 2026年6月の訪問看護報酬改定を企業価値評価の前提に必ず織り込む。

指定の承継やDDの論点は、初期のスキーム設計で結果が大きく変わります。介護・ホスピス事業の譲渡・承継をご検討の際は、業界特有の実務に精通した専門家に早めにご相談ください。CUCAPでは病院・クリニック・介護の分野に特化したM&A支援を行っています。まずは無料相談から、貴社の状況に合わせた進め方をご提案します。

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