「ホスピス型住宅を開設したい」「ホスピスを開業して在宅医療・介護の領域で新規参入したい」——高齢化と多死社会の進行を背景に、末期がんや難病の方が最期まで安心して暮らせる住まいへのニーズは高まり続けています。実際、亡くなる場所は今なお病院・診療所が65.7%を占める一方、自宅17.0%、介護施設等15.5%と、暮らしの場での看取りは着実に広がっています(出典:厚生労働省「人口動態統計」)。
ただし、ホスピス型住宅の開設は「建物を用意すれば始められる」というものではありません。住まい(有料老人ホームまたはサービス付き高齢者向け住宅)、介護サービスの指定、併設の訪問看護ステーションという3つの要素を組み合わせ、それぞれに必要な届出・登録・指定を積み上げていく複合事業だからです。
この記事では、ホスピス型住宅の開設に必要な指定・登録の全体像、人員体制の考え方、立ち上げの一般的な流れ、そしてゼロからの新規開設とM&A(既存事業の譲受)による参入の比較までを、制度の枠組みに沿って整理します。開業を検討する経営者・事業責任者が「何を、どの順番で押さえるべきか」を把握できる内容です。
POINTホスピス型住宅の開設には「①住まい(有料老人ホーム/サ高住)②介護サービスの指定③訪問看護ステーションの指定」の3要素が必要です。収益は介護保険と医療保険(訪問看護)のダブル構造で、成否を左右する最大の変数は看護人材の確保です。加えて、2026年6月からの訪問看護の報酬引き下げ(出典:厚生労働省、共同通信報道)を事業計画に織り込むことが欠かせません。ゼロからの開設と、指定・人材・稼働を引き継げるM&Aの両面から参入方法を検討することをおすすめします。
ホスピス型住宅の開設に必要な3つの要素
ホスピス型住宅とは、末期がんや難病等で回復が見込めないと医師に診断された方が入居する住宅型有料老人ホーム(またはサービス付き高齢者向け住宅)で、併設の訪問看護ステーションから医療保険による手厚い訪問看護を提供する形態を指します。入居期間の制限は原則ありません。
この事業は単体のサービスではなく、複数の制度が重なり合って成立します。開設にあたっては、次の3つの要素をそれぞれ整える必要があります。
① 住まい(有料老人ホーム/サービス付き高齢者向け住宅)
入居者が生活する「器」となる住まいです。実務上は住宅型有料老人ホーム、またはサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の形態をとります。参考までに、有料老人ホームは令和6年(2024年)3月時点で16,543施設・定員約64.6万人、サ高住は8,294施設・約28.7万戸が存在します(出典:厚生労働省「社会福祉施設等調査」等、各種公表資料)。サ高住のうち約96%は有料老人ホームにも該当するとされ、両制度は実態として重なり合っています。
② 介護サービスの指定
入居者への介護サービスを提供するための指定です。住宅型では、併設または外部の訪問介護等の居宅サービスを組み合わせて生活を支えます。介護保険サービスとして報酬を得るには、事業者としての指定を受ける必要があります。
③ 訪問看護ステーションの指定
ホスピス型住宅の中核をなすのが訪問看護ステーションです。末期がん・難病等の入居者に対し、医療保険による頻回の訪問看護(1日複数回・複数名訪問等)を提供します。この訪問看護こそが、一般的な高齢者住宅とホスピス型住宅を分ける決定的な違いです。
なぜ「ダブルの収益構造」なのか
ホスピス型住宅は、施設側で提供する介護(介護保険)に加え、併設の訪問看護ステーションからの訪問看護(医療保険)という2つの収益の柱を持ちます。特に末期がん・難病等では、特別訪問看護指示書等により支給限度額の枠外で頻回訪問が可能となり、これが高収益の源泉とされてきました。一方で、この構造は後述する制度改定の対象にもなっています。
住まいの届出・登録(有料老人ホーム/サ高住)
3要素のうち、まず土台となるのが「住まい」の届出・登録です。選ぶ形態によって手続きの枠組みが異なります。
住宅型有料老人ホームの設置届
有料老人ホームを設置する場合、老人福祉法に基づき、都道府県知事等への設置届が必要です。事業を始める前に、施設の概要・入居定員・提供サービス・重要事項説明書等を整えて届け出る枠組みとなっています。地域によっては、高齢者施設の総量を調整する観点から、事前協議や事業計画の確認を求める自治体もあります。
サービス付き高齢者向け住宅の登録
サ高住として運営する場合は、高齢者住まい法に基づく登録制度を利用します。バリアフリー構造、一定の居室面積、安否確認・生活相談サービスの提供といった登録基準を満たしたうえで、都道府県等へ登録します。登録された情報は公開され、入居希望者が比較検討できる仕組みになっています。
自治体ごとの運用差に注意
住まいの届出・登録は法律で全国共通の枠組みが定められていますが、事前協議の要否、必要書類、地域の総量規制の考え方などは自治体によって運用が異なります。物件を確保する前に、必ず設置予定地の自治体(高齢福祉・介護保険担当部署)へ事前相談し、一次情報で最新の取扱いを確認してください。
訪問看護ステーションの指定と看護体制
ホスピス型住宅の心臓部が訪問看護ステーションです。ここでは指定の考え方と、最重要課題である看護体制について整理します。
医療保険・介護保険の両面での位置づけ
訪問看護ステーションは、介護保険の指定(介護予防を含む)を受けることで介護保険の訪問看護を提供でき、その指定を受けた事業所は医療保険の訪問看護も提供できる枠組みとなっています。ホスピス型住宅では、末期がん・難病等の入居者に対する医療保険の訪問看護が中心的な役割を担います。
看護人材の確保が最大の関門
訪問看護ステーションの指定を受け、運営を継続するうえで欠かせないのが看護職員の確保です。ステーションは常勤換算で一定数以上の看護職員(保健師・看護師・准看護師)を配置し、管理者を置くことが求められます。具体的な人員配置数は指定基準で定められているため、開設地の自治体・指定権者が公表する一次情報で必ず確認してください。
看護人材の獲得競争は年々激しさを増しています。訪問看護ステーションの数は、2024年4月時点で稼働17,329ヶ所(前年比+1,632、+12.3%)と過去最高を更新し、2010年から2023年で約3倍に増加しました。一方で、廃止701・休止291も過去最多となっています(出典:全国訪問看護事業協会「訪問看護ステーション数調査」)。開設が急増する裏で、人材を確保できず撤退する事業所も少なくないことを示す数字です。
POINT指定は「基準を満たせば取得できる」ものですが、ホスピス型住宅の運営を実際に回せるかどうかは看護人材の確保にかかっています。開設計画では、物件や届出よりもむしろ「採用計画」を最優先で組み立てるのが現実的です。
ホスピス型住宅 開設・立ち上げの一般的な流れ
ここまでの要素を、実際の立ち上げステップとして並べると次のようになります。事業により前後しますが、一般的な流れの目安として参考にしてください。
- 事業計画の策定:対象地域の需要、競合、想定入居者像、収支計画を立てる。特に医療保険(訪問看護)と介護保険の収益構造、人件費、後述の報酬改定の影響を織り込む。
- 物件の確保:立地・居室数・バリアフリー要件・訪問看護ステーション併設スペースを満たす物件を選定。自治体の事前協議・総量規制も確認する。
- 各種届出・指定申請:住宅型有料老人ホームの設置届またはサ高住の登録、介護サービスの指定、訪問看護ステーションの指定を、それぞれの所管に申請する。
- 人材採用:管理者・看護職員・介護職員・生活相談員等を確保。看護人材は開設スケジュールを左右するため最優先で進める。
- 運営体制の構築:連携する在宅医(協力医療機関)、緊急時対応、記録・請求(レセプト)体制、感染対策・BCP、重要事項説明書や運営規程を整備する。
- 開設・運営開始:入居者の受け入れを開始。稼働率の立ち上がりに合わせて人員体制を調整し、コンプライアンス(訪問看護指示書の適正性等)を継続的に点検する。
各届出・指定は所管や審査スケジュールが異なり、同時並行で進める場面が多くなります。全体を統括するプロジェクト責任者を置き、自治体・指定権者との事前相談を早期に始めることが、開設遅延を防ぐ鍵になります。
ゼロから開設するか、M&Aで参入するか
ホスピス型住宅への参入方法は、ゼロからの新規開設だけではありません。既に指定を取得し稼働している事業を譲り受けるM&A(事業承継型の参入)も有力な選択肢です。両者の違いを整理します。
| 比較項目 | ゼロから開設 | M&A(既存事業の譲受) |
|---|---|---|
| 指定・登録 | 一から申請・取得が必要 | 既存の指定を引き継げる場合がある(スキームにより差) |
| 人材 | 看護・介護職員を新規採用 | 既存スタッフの雇用を承継しやすい |
| 稼働・入居者 | ゼロから稼働率を積み上げる | 既存の入居者・稼働を引き継げる |
| 立ち上げ期間 | 長い(届出・採用・稼働に時間) | 相対的に短い |
| 主な留意点 | 需要見込みの精度、採用力 | 譲渡価格、簿外債務やコンプライアンスのDD |
M&Aなら「指定・人材・稼働」をまとめて引き継げる
ホスピス型住宅の運営主体は株式会社が中心です。医療法人(病院)と異なり株式譲渡が使えるため、株式譲渡や会社分割によって参入すれば、指定・人材・入居者・稼働をまとめて引き継ぎやすいという特徴があります。
ここで重要なのが指定の承継可否です。一般に、株式譲渡や会社分割では事業の指定を継続しやすい一方、事業譲渡では原則として指定を取り直す必要があります。会社分割の場合は労働契約承継法の手続きも関わります。どのスキームを選ぶかで承継の手間が大きく変わるため、専門家を交えた設計が欠かせません。
高齢化・多死社会、経営者の高齢化・後継者不在、人材確保難を背景に、介護・ホスピス領域では再編が進んでいます。後継者不在は経営課題として根深く、全国全業種の後継者不在率は52.1%(2024年)にのぼります(出典:帝国データバンク「全国後継者不在率動向調査(2024年)」)。譲渡を検討する既存事業者と、参入を目指す事業者のニーズが合致しやすい環境です。ホスピス・介護分野のM&Aの全体像は、ホスピスM&Aの専門ページもあわせてご覧ください。
開設・参入時の注意点
最後に、ゼロからの開設・M&Aのいずれにも共通する重要な注意点を整理します。
看護人材の確保難を前提に計画する
繰り返しになりますが、最大のボトルネックは看護人材です。訪問看護ステーションの廃止・休止が過去最多である事実(出典:全国訪問看護事業協会「訪問看護ステーション数調査」)は、人材を確保できなければ事業が立ち行かないことを物語っています。採用チャネルの多様化、処遇・働き方の設計、既存事業者からの承継など、人材を「どう集め、どう定着させるか」を計画段階で具体化しておく必要があります。
2026年6月の訪問看護報酬改定を織り込む
ホスピス型住宅では、過剰な回数の訪問看護による報酬稼ぎが問題視され、2026年6月から訪問看護の診療報酬が大幅に引き下げられることが決定しています(出典:厚生労働省、共同通信報道)。これは収益予測や企業価値評価の前提を変える重大な変更です。新規開設なら収支計画を、M&Aなら譲渡価格の妥当性を、改定後の水準で見直す必要があります。
コンプライアンス(適正運営)の確認
訪問看護指示書に虚偽の病名や過剰な複数回訪問の指示を記載するよう不適切な要求を受けた経験がある医師が約4割にのぼるとの調査もあります(出典:日本在宅医療連合学会)。ホスピス型住宅の高収益構造は、適正に運営してこそ持続可能です。M&Aでは、指示書・請求の適正性をデューデリジェンス(DD)で丁寧に確認することが、取得後のリスクを避けるうえで欠かせません。
「高収益」の前提は変わりつつある
これまでホスピス型住宅の魅力とされてきた医療保険×介護保険のダブル収益構造は、報酬改定と適正化の流れの中で見直しが進んでいます。過去の収益実績をそのまま将来に引き延ばすのではなく、制度改定後の前提で保守的に評価することが、開設・参入いずれの場合も重要です。
よくある質問
ホスピス型住宅と一般の有料老人ホームは何が違いますか?
住まいの形態(住宅型有料老人ホーム/サ高住)自体は共通ですが、ホスピス型住宅は末期がん・難病等で回復が見込めない方を主な対象とし、併設の訪問看護ステーションから医療保険による手厚い訪問看護を提供する点が特徴です。介護保険に加えて医療保険の収益が加わる「ダブルの収益構造」になります。
開設にはどのくらいの期間がかかりますか?
物件確保、各種届出・指定申請、人材採用、運営体制構築を経るため、一定の期間を要します。特に看護人材の採用が全体スケジュールを左右します。期間を短縮したい場合は、既存事業を引き継ぐM&Aが選択肢となります。具体的な所要期間は物件条件や自治体の審査状況で変わるため、断定はできません。
人員基準の具体的な配置数を教えてください。
訪問看護ステーションや介護サービスの人員配置数は指定基準で定められていますが、基準は改定され、自治体・指定権者によって運用の細部が異なります。正確な人数は、開設予定地の所管が公表する一次情報で必ず確認してください。この記事では具体的な人数の断定は避けています。
2026年6月の報酬改定は、これから開設する事業にも影響しますか?
はい。2026年6月からの訪問看護の診療報酬引き下げ(出典:厚生労働省、共同通信報道)は、これから開設する事業にも当然影響します。新規開設・M&Aのいずれも、改定後の報酬水準で収支や譲渡価格を見直すことをおすすめします。
ゼロから開設とM&A、どちらが向いていますか?
需要が見込める地域で自社の理念に沿った施設を一から作りたい場合はゼロからの開設が、立ち上げ期間を短縮し、指定・人材・稼働をまとめて引き継ぎたい場合はM&Aが向いています。人材確保が難しい局面では、既存の看護体制ごと承継できるM&Aの優位性が高まります。両面から比較検討するのが賢明です。
まとめ
ホスピス型住宅の開設は、「住まい(有料老人ホーム/サ高住)」「介護サービスの指定」「訪問看護ステーションの指定」という3要素を組み合わせる複合事業です。収益は介護保険と医療保険(訪問看護)のダブル構造で、成否を最も大きく左右するのは看護人材の確保です。加えて、2026年6月からの訪問看護報酬の引き下げ(出典:厚生労働省、共同通信報道)を前提に、収支や企業価値を保守的に見直すことが欠かせません。
参入方法は、ゼロからの新規開設と、指定・人材・稼働を引き継げるM&Aの2つ。人材確保が難しい今、既存事業を承継できるM&Aは有力な選択肢です。ホスピス・介護M&Aの全体像はホスピスM&Aの専門ページで詳しく解説しています。
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