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ホスピス型住宅M&Aのメリット・デメリット|売り手・買い手別に解説

末期がんや難病の入居者に手厚い医療的ケアを提供する「ホスピス型住宅」は、ここ数年で急速に広がり、M&A(事業承継・売却)の対象としても注目を集めています。「後継者がいないが、入居者やスタッフのために事業は残したい」という経営者の方、あるいは「成長市場に参入したい」という買い手の方にとって、M&Aは有力な選択肢です。

一方で、ホスピス型住宅のM&Aには、収益構造の特殊性ゆえの独特のメリットとリスクが存在します。特に2026年6月には訪問看護の診療報酬が大幅に引き下げられることが決まっており、収益前提が変わる転換点を迎えています。

この記事では、ホスピス型住宅M&Aが活発化する背景を整理したうえで、売り手(譲渡側)・買い手(譲受側)それぞれのメリット・デメリットを分けて解説します。制度改定を織り込んだうえで、メリットを最大限に活かすための進め方まで、実務目線でお伝えします。

POINTホスピス型住宅M&Aは、多死社会の進行・後継者不在・人材難を背景に活発化しています。売り手には「後継者問題の解決」「創業者利益の獲得」「事業とケアの継続」という大きなメリットがある一方、買い手は「指定・稼働・人材を引き継いだ即戦力化」を期待できます。ただし2026年6月の訪問看護 診療報酬引き下げにより収益前提が変わるため、双方とも制度改定を織り込んだ冷静な検討が不可欠です。

ホスピス型住宅M&Aが活発化する背景

まずは、なぜ今ホスピス型住宅のM&Aが増えているのか、その背景を4つの視点から整理します。市場環境を正しく理解することが、メリット・デメリットを見極める前提になります。

多死社会の進行と「看取りの場」の不足

日本は今、かつてない多死社会を迎えつつあります。2025年には団塊世代が全員75歳以上となり、後期高齢者人口は約2,180万人に達します(出典:厚生労働省等)。亡くなる方の数が増える一方で、看取りの場は必ずしも足りていません。

死亡場所の内訳を見ると、2023年時点で病院・診療所が65.7%、自宅が17.0%、介護施設等が15.5%となっています(出典:厚生労働省「人口動態統計」)。病床の機能分化が進むなかで、病院以外で最期を過ごせる受け皿として、末期がんや難病の方を受け入れるホスピス型住宅の役割が高まっているのです。

医療保険×介護保険の高収益モデル

ホスピス型住宅が事業として注目される最大の理由は、その収益構造にあります。

ホスピス型住宅

末期がん・難病等で回復が見込めないと医師に診断された人が入居する住宅型有料老人ホーム(またはサービス付き高齢者向け住宅)で、併設の訪問看護ステーションから医療保険で手厚い訪問看護(1日複数回・複数名訪問等)を提供する形態です。入居期間の制限は原則ありません。

収益は「介護保険(施設の介護)」と「医療保険(訪問看護)」のダブルで成り立ちます。医療保険による訪問看護は、末期がんや難病等の場合、特別訪問看護指示書等によって頻回訪問が可能で、介護保険の支給限度額の枠外で算定できます。これが高収益の源泉とされてきました。

こうした需要を背景に、訪問看護ステーションの数は大きく伸びています。2024年4月時点で稼働は17,329ヶ所となり、前年比で1,632ヶ所(+12.3%)増え、過去最高を更新しました(出典:全国訪問看護事業協会)。有料老人ホームも2024年3月時点で16,543施設・定員約64.6万人にのぼります(出典:厚生労働省「社会福祉施設等調査」等)。

経営者の高齢化と後継者不在

成長市場である一方、単独運営の事業者では後継者不在という共通課題が顕在化しています。日本全体の後継者不在率は2024年時点で52.1%(出典:帝国データバンク「全国後継者不在率動向調査(2024年)」)と、依然として過半数の企業が後継者を確保できていません。介護・医療系サービスも例外ではなく、事業を次代へどうつなぐかは切実なテーマです。M&Aは、この後継者問題を解決する現実的な手段として選ばれています。

深刻化する看護・介護の人材難

ホスピス型住宅の価値の源泉は、手厚いケアを担う看護・介護人材そのものです。しかし人材確保は年々難しくなっています。介護職員の必要数は、2019年度の約211万人から2025年度に約243万人、2040年度には約280万人へと増えると推計されています(出典:厚生労働省推計)。自前での採用・育成が難しい事業者にとって、人材ごと事業を引き継げるM&Aは、人材難への一つの答えにもなっています。

ホスピス型住宅M&A全体の論点や進め方は、ホスピス型住宅M&Aの解説ハブページで体系的にまとめています。あわせてご覧ください。

売り手(譲渡側)のメリット

ここからは、事業を譲渡する売り手側のメリットを見ていきます。ホスピス型住宅の売却には、金銭的な側面だけでなく、事業とケアを守るという意味でも大きな価値があります。

後継者不在の課題を解決できる

最大のメリットは、後継者問題を根本から解決できることです。親族や社内に承継者がいない場合でも、M&Aで意欲と体力のある買い手に引き継げば、事業の存続が実現します。廃業を選べば入居者は転居を迫られ、スタッフは職を失いますが、M&Aならそうした事態を避けられます。

創業者利益の獲得とEXITの実現

株式譲渡によって、経営者はこれまで築いてきた事業価値を対価として受け取ることができます。ホスピス型住宅の運営主体は株式会社が中心であり(=株式譲渡が使える。病院=医療法人と異なる)、株式譲渡というシンプルなスキームで創業者利益を実現しやすいのが特徴です。引退後の生活資金や次の挑戦への原資を確保できる、いわゆるEXIT(出口戦略)として機能します。

なぜ株式譲渡が使えるのか

病院を運営する医療法人は非営利法人で剰余金配当が禁止され、株式会社の株式譲渡は使えません。一方、ホスピス型住宅は株式会社運営が中心のため、株式譲渡を用いた一般的なM&Aスキームが選択できます。指定の承継も、株式譲渡や会社分割であれば継続しやすい(事業譲渡は原則、指定の取り直しが必要)という違いがあります。

事業の存続と入居者ケアの継続

ホスピス型住宅の入居者は、末期がんや難病を抱え、日々手厚い医療的ケアを必要としています。廃業は入居者にとって「行き場の喪失」を意味しかねません。M&Aで事業を継続できれば、入居者は住み慣れた環境でケアを受け続けられます。「自分がつくった事業とケアの体制を残したい」という経営者の想いに応えられる点は、金銭には代えがたいメリットです。

大手グループ傘下での経営安定

資本力のある大手グループの傘下に入ることで、経営基盤が安定します。採用力・仕入れ・バックオフィス機能などをグループで共有でき、単独運営では難しかった投資や人材確保も進めやすくなります。制度改定への対応力という点でも、組織的なノウハウを持つグループの一員となる意義は小さくありません。

売り手のデメリット・留意点

メリットが大きい一方で、売り手として押さえておくべき留意点もあります。事前に理解しておくことで、想定外の事態を防げます。

希望条件で買い手が見つからない可能性

すべての事業が希望どおりの条件で売却できるとは限りません。立地、稼働率、指定・加算の状況、看護人材の充実度、コンプライアンス体制などによって、買い手からの評価は変わります。特に後述する制度改定の影響で、買い手が収益前提を保守的に見積もる局面では、希望する条件と折り合わないケースもあり得ます。具体的な金額は案件ごとに大きく異なるため、早めに専門家へ相談し、自社の強みと弱みを客観的に把握しておくことが重要です。

従業員・入居者への影響

M&Aは、そこで働くスタッフや入居者にも影響します。運営方針や労働条件が変わることへの不安から、看護・介護人材が離職してしまうと、事業価値そのものが損なわれかねません。

情報開示のタイミングに注意

従業員や入居者・家族への説明のタイミングや伝え方を誤ると、不信感や動揺を招きます。買い手と協議のうえ、雇用や処遇、ケア方針の継続をどう約束するかを整理し、丁寧なコミュニケーション計画を立てることが欠かせません。

買い手(譲受側)のメリット

続いて、事業を譲り受ける買い手側のメリットです。ゼロから立ち上げるのと比べ、M&Aには時間と労力を大きく短縮できる利点があります。

指定・稼働・人材を引き継ぎ即戦力化できる

新規で開設する場合、施設の指定取得、入居者の募集、看護・介護人材の採用と、稼働に至るまでには長い時間がかかります。M&Aなら、既存の指定・稼働している入居者・稼働している人材をまとめて引き継げるため、初日から収益を生む事業として稼働させられます。前述のとおり、株式譲渡や会社分割であれば指定を継続しやすい点も、即戦力化を後押しします。

垂直統合・水平統合による事業拡大

ホスピス型住宅の取得は、事業ポートフォリオの拡充にも直結します。

統合の型 内容と狙い
垂直統合 在宅→有料老人ホーム/サ高住→介護医療院・病院と、ケアの連続性を自社グループ内で完結させる。入居者を切れ目なく受け止められる。
水平統合 同種の施設を多拠点で展開し、特定エリアでのドミナント(面の支配)を築く。採用・運営の効率化と地域での存在感向上につながる。

既存事業とのシナジーを設計できれば、単なる規模拡大にとどまらない価値を生み出せます。

成長市場への参入

多死社会の進行により、末期がん・難病の方を受け入れる看取りの受け皿への需要は今後も見込まれます。異業種やファンドがこの市場に参入する動きもあり、M&Aは成長市場への参入手段として有効です。ゼロから参入するより、既に運営実績のある事業を取得するほうが、ノウハウ習得と立ち上げのリスクを抑えられます。

買い手のデメリット・リスク

買い手にとってメリットが大きい反面、ホスピス型住宅特有のリスクは慎重に見極める必要があります。デューデリジェンス(DD)で確認すべき論点でもあります。

簿外債務・指定/加算リスクの承継

株式譲渡では、対象会社の権利義務を包括的に引き継ぎます。つまり、貸借対照表に表れない簿外債務(未払残業代、係争、保証債務など)も承継してしまうリスクがあります。加えて、診療報酬・介護報酬の請求が適正か、指定や加算の要件を満たしているかも重要です。過去に不適切な請求があれば、返還や指定への影響が生じかねません。

コンプライアンスDDの重要性

訪問看護指示書に虚偽病名や過剰な複数回訪問の指示を記載するよう不適切な要求を受けた経験がある医師が約4割との調査結果もあります(出典:日本在宅医療連合学会)。訪問看護の回数・内容・指示書の適正性は、DDで必ず確認すべき論点です。

看護人材の流出

ホスピス型住宅の価値は、手厚いケアを担う看護・介護人材に大きく依存します。M&A後に経営方針や処遇が変わることで、キーとなる看護師が離職すれば、サービス提供体制が揺らぎ、事業価値も下がります。人材の定着策(処遇の維持、キーパーソンへの説明、インセンティブ設計など)を統合計画(PMI)に織り込むことが欠かせません。

2026年6月の報酬改定による収益前提の変化

買い手が最も注意すべきなのが、制度改定による収益前提の変化です。ホスピス型住宅における過剰回数の訪問看護による報酬稼ぎが問題視され、2026年6月から訪問看護の診療報酬が大幅に引き下げられることが決定しています(出典:厚生労働省、共同通信報道)。

収益前提が変わるとは

ホスピス型住宅の高収益は、医療保険による頻回の訪問看護に支えられてきました。その報酬が引き下げられれば、これまでの収益モデルをそのまま前提にした事業計画は成り立たなくなります。過去の実績(PL)をそのまま将来に引き伸ばして評価すると、買収後に想定を下回る事態になりかねません。改定後の報酬体系を織り込んだ収益予測に基づいて、企業価値を評価する必要があります。

売り手・買い手いずれの立場でも、この制度改定を前提条件として共有し、価格やスキームに反映させることが、後々のトラブルを避ける鍵になります。

メリットを活かすための進め方

ホスピス型住宅M&Aのメリットを最大化し、リスクを抑えるための進め方を整理します。基本的な流れは一般的な事業承継M&Aと共通する部分も多く、事業承継M&Aのメリット・デメリットの記事もあわせて参考になります。

早めに現状を可視化する

売り手は、稼働率・指定/加算の状況・看護人材の充実度・コンプライアンス体制など、自社の価値と課題を早めに棚卸ししておきましょう。買い手は、取得目的(垂直統合か水平統合か、参入か)を明確にし、求める事業像を具体化しておくことが大切です。

制度改定を織り込んだ検討を行う

2026年6月の報酬改定は、価格・スキーム・事業計画のすべてに影響します。改定後の収益前提で数字を見直し、双方が同じ土俵で条件を協議することが、納得感のある合意につながります。

専門家によるデューデリジェンスを徹底する

簿外債務、指定・加算の適正性、訪問看護の内容の適正性、労務、人材の定着リスクなど、ホスピス型住宅には固有の確認事項が数多くあります。医療・介護分野に精通した専門家によるDDと、統合後を見据えた計画づくりが、メリットを確実に手にするための土台です。

POINTホスピス型住宅M&Aの成否を分けるのは、「制度改定を織り込んだ収益前提」と「人材・コンプライアンスを含む徹底したDD」です。売り手も買い手も、早い段階で専門家に相談し、同じ前提で条件を協議することが成功への近道です。

よくある質問

ホスピス型住宅は株式譲渡で売却できますか?

運営主体が株式会社であれば、株式譲渡による売却が一般的です。病院を運営する医療法人は非営利法人で株式譲渡を使えませんが、ホスピス型住宅は株式会社運営が中心のため、株式譲渡というシンプルなスキームを選べます。指定の承継も、株式譲渡であれば継続しやすいのが利点です。

2026年6月の報酬改定は、売却価格にどう影響しますか?

訪問看護の診療報酬が引き下げられることで(出典:厚生労働省、共同通信報道)、これまでの収益モデルを前提にした評価は見直しが必要になります。改定後の収益前提で数字を再検討することになるため、売り手・買い手ともに制度改定を織り込んだ協議が重要です。具体的な価格は稼働・人材・コンプライアンス体制など案件ごとの条件で大きく異なるため、専門家に個別相談することをおすすめします。

M&A後も入居者へのケアは続けられますか?

はい。M&Aは事業と体制ごと引き継ぐため、廃業と異なり入居者は住み慣れた環境でケアを受け続けられます。買い手との間で、ケア方針やスタッフの雇用継続をどう約束するかを事前に整理しておくと、入居者・家族の安心につながります。

従業員(看護師・介護職)の雇用は守られますか?

雇用の継続は、売り手・買い手双方にとって重要なテーマです。看護人材はホスピス型住宅の価値の源泉であり、買い手も定着を望むのが通常です。処遇の維持やキーパーソンへの丁寧な説明を統合計画に織り込むことで、人材流出を防ぎながら事業価値を守れます。

まとめ

ホスピス型住宅M&Aは、多死社会の進行・後継者不在・人材難を背景に活発化しています。売り手には「後継者問題の解決」「創業者利益の獲得」「事業とケアの継続」「大手グループ傘下での安定」という大きなメリットがあり、買い手は「指定・稼働・人材を引き継いだ即戦力化」「垂直/水平統合」「成長市場への参入」を期待できます。

一方で、売り手には希望条件で買い手が見つからない可能性や従業員・入居者への影響、買い手には簿外債務・指定/加算リスクの承継や看護人材の流出といった留意点があります。そして双方に共通する最大の論点が、2026年6月の訪問看護 診療報酬引き下げ(出典:厚生労働省、共同通信報道)による収益前提の変化です。制度改定を織り込んだうえで、徹底したデューデリジェンスと同じ前提での条件協議を行うことが、メリットを確実に手にする鍵となります。

ホスピス型住宅M&Aの全体像や進め方は、ホスピス型住宅M&Aの解説ハブページで詳しくまとめています。

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