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ホスピス型住宅のM&A相場|企業価値評価とEBITDAの考え方

「ホスピス型住宅を売却したら、いくらになるのか」。事業の譲渡を考え始めたとき、経営者がまず知りたいのは相場観です。しかし結論から言えば、ホスピス型住宅のM&Aに「坪単価いくら」「1棟あたりいくら」といった一律の相場は存在しません。同じ入居定員でも、稼働率・訪問看護レセプトの規模・人材の充足度・物件の保有形態によって、企業価値は大きく変わるからです。

ホスピス型住宅は、住宅型有料老人ホーム(またはサービス付き高齢者向け住宅)と、併設の訪問看護ステーションを組み合わせた複合事業です。介護保険と医療保険の双方から収益を得る構造が特徴で、評価の考え方も一般的な介護施設とは異なります。さらに、2026年6月から訪問看護の診療報酬が大幅に引き下げられることが決まっており、価値評価の前提そのものが変わりつつあります。

この記事では、ホスピス型住宅のM&Aで用いられる企業価値評価の手法(EV/EBITDAマルチプル法・時価純資産法)と、価格を左右する価値ドライバー、そして2026年6月の制度改定が評価に与える影響を、専門仲介の視点から解説します。具体的な金額や倍率は案件ごとに異なるため断定しませんが、「何を見て、どう評価されるのか」の全体像を掴んでいただけます。

POINTホスピス型住宅の売却価格に一律の基準はなく、収益力(EBITDA)と稼働率をベースに個別評価される。中心的な手法はEV/EBITDAマルチプル法と時価純資産法。価値を左右するのは入居稼働率・訪問看護レセプトの規模と安定性・看護介護人材の充足・物件の保有形態・行政指導リスクの5点。特に2026年6月の訪問看護診療報酬引き下げは収益前提を変えるため、評価に必ず織り込む必要がある。

ホスピス型住宅の相場に「一律の基準」はない

不動産のように「立地×面積」で価格が決まると考えると、M&Aの評価は理解しづらくなります。ホスピス型住宅の売買で取引されるのは建物そのものではなく、「事業が将来生み出すキャッシュフロー」だからです。したがって、同じ規模・同じエリアの2つの施設でも、収益力が違えば評価額は倍以上変わることも珍しくありません。

評価されるのは「箱」ではなく「収益力」

ホスピス型住宅の収益は、介護保険(住宅部分の介護サービス)と医療保険(併設訪問看護)のダブル構造で成り立っています。特に、末期がん・難病等の入居者に対しては特別訪問看護指示書等により頻回・複数名の訪問看護が可能で、これが高い収益性の源泉になっています(出典:厚生労働省)。買い手はこの収益構造の「持続性」を見て価格を判断するため、直近の売上だけでなく、稼働の安定性や制度リスクまで含めて総合評価されます。

背景にある需要の拡大と再編

ホスピス型住宅への需要が高まる背景には、多死社会の進行があります。2023年の死亡場所は病院・診療所が65.7%を占める一方、自宅が17.0%、介護施設等が15.5%となっており、病院以外での看取りの受け皿が求められています(出典:厚生労働省「人口動態統計」)。2025年には後期高齢者人口が約2,180万人に達し(出典:厚生労働省等)、訪問看護ステーション数も2024年4月時点で稼働17,329ヶ所と前年比プラス12.3%で過去最高を記録しています(出典:全国訪問看護事業協会)。市場が拡大する一方で人材確保難や経営者の高齢化を背景に事業再編も進んでおり、売り手・買い手ともに動きが活発な領域です。

なぜ相場を一括りにできないのか

有料老人ホームは2024年3月時点で16,543施設・定員約64.6万人、サービス付き高齢者向け住宅は8,294施設・約28.7万戸(うち約96%が有料老人ホームにも該当)と、施設の形態・規模は多様です(出典:厚生労働省「社会福祉施設等調査」等)。ホスピス型はこの中でも医療依存度が高い入居者を対象とする特殊形態であり、収益・コスト構造が施設ごとに大きく異なるため、単純な平均相場が機能しません。

主な企業価値評価の手法

ホスピス型住宅を含む介護・医療系事業のM&Aでは、主に2つの評価アプローチが使われます。EV/EBITDAマルチプル法と、時価純資産(+営業権)法です。実務では両者を併用し、事業の性質に応じて重み付けを調整します。

EBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)

営業利益に減価償却費などを足し戻した、事業が本業で生み出すキャッシュ創出力を表す指標。設備投資(減価償却)や資本構成の影響を除くため、施設ごとの「素の稼ぐ力」を比較しやすく、M&Aの価値評価で広く使われます。

EV/EBITDAマルチプル法

事業価値(EV)がEBITDAの何倍かという「倍率(マルチプル)」を用いて評価する方法。対象事業のEBITDAに、事業の成長性・安定性・リスクを反映した倍率を掛けて事業価値を算定します。倍率は市場環境や個別案件の条件で変動するため、本記事では具体的な数値には触れません。安定した収益力があるほど倍率は高く評価される傾向があります。

時価純資産(+営業権)法

貸借対照表上の資産・負債を時価に評価し直した「時価純資産」に、超過収益力である営業権(のれん)を加えて株式価値を算定する方法。土地・建物などの資産を保有する事業や、収益がまだ安定しきっていない事業で用いられやすく、中小規模の医療・介護M&Aで広く採用されています。

どちらの手法が使われるか

収益が安定的に積み上がっている稼働率の高い施設では、収益力を直接反映するEV/EBITDAマルチプル法が主軸になりやすく、逆に開設から日が浅く収益が安定していない施設や、自社で土地建物を保有する施設では時価純資産法の比重が高まります。実際の交渉では両手法の算定レンジを示し、買い手候補との協議で着地点を探るのが一般的です。企業価値評価の全体像や相場観の考え方は、関連記事「会社売却の相場」でも整理しています。

価値を左右する5つのドライバー

同じ評価手法を使っても、最終的な金額を大きく動かすのは以下の価値ドライバーです。売却を検討する段階で、自社がどの位置にあるかを点検しておくと、交渉を有利に進められます。

1. 入居稼働率と重度化対応

稼働率は収益の土台です。満床に近い稼働を安定的に維持できているか、そして末期がん・難病等の重度な入居者を受け入れる体制(看取り実績・医療連携)があるかが評価に直結します。重度化対応力が高いほど、医療保険からの収益が厚くなり、他施設との差別化要因にもなります。

2. 訪問看護レセプトの規模と安定性

併設訪問看護ステーションのレセプト(診療報酬請求)の規模と、その安定性は、ホスピス型住宅の収益力を測る核心です。買い手は、レセプトが特定の要因に依存せず継続的に積み上がっているか、請求内容が制度上適正かを精査します。ここで適正性に懸念があると、評価の減額やディールブレイク(破談)の原因になります。

レセプトの適正性はデューデリジェンスの最重要論点

訪問看護指示書に虚偽病名や過剰な複数回訪問の指示を記載するよう不適切な要求を受けた経験がある医師が約4割にのぼるとの調査があります(出典:日本在宅医療連合学会)。買い手は必ずレセプトの適正性を確認します。過剰請求に依存した収益は評価対象から除外されるだけでなく、将来の返還リスクとして価格を大きく押し下げる要因になります。

3. 看護・介護人材の充足

ホスピス型住宅は人材集約型の事業であり、看護師・介護職員の確保状況がそのまま事業継続力に直結します。介護職員の必要数は2019年度の約211万人から2025年度に約243万人、2040年度には約280万人へ増えると推計されており(出典:厚生労働省推計)、人材の獲得競争は今後さらに激化します。すでに定着した看護・介護チームを抱えている施設は、買い手にとって「即戦力の獲得」となり高く評価されます。

4. 物件の保有形態と賃料

土地・建物を自社保有しているか賃借しているかは、評価手法の選択とキャッシュフローの両面に影響します。賃借の場合、賃料水準・契約残存期間・更新条件が収益性を左右します。相場より高い賃料や短い残存期間は将来リスクとして評価されるため、契約条件の整理は事前準備の重要ポイントです。

5. 指定・実地指導リスク

介護保険の指定基準の遵守状況や、過去の実地指導・監査での指摘歴、返還の有無は、行政リスクとして精査されます。株式譲渡や会社分割では指定を継続しやすい一方、事業譲渡では原則として指定を取り直す必要があり、スキーム選択にも関わります。行政対応の記録が整理され、コンプライアンス体制が明確な施設ほど、買い手は安心して価格を提示できます。

POINT5つのドライバー(稼働率・訪問看護レセプト・人材・物件・行政リスク)はいずれも「収益の持続性」に関わる。数字上の売上が同じでも、持続性への信頼が高いほど評価は上がる。ホスピス型住宅の評価の考え方はホスピス・介護M&A特集でも体系的に解説している。

2026年6月の訪問看護 診療報酬引き下げが評価に与える影響

ホスピス型住宅の価値評価を語るうえで、避けて通れないのが2026年6月に予定される制度改定です。これは従来の収益前提を根本から見直す必要がある、極めて重要な論点です。

2026年6月から訪問看護の診療報酬が大幅引き下げ

ホスピス型住宅での過剰な回数の訪問看護による報酬稼ぎが問題視され、2026年6月から訪問看護の診療報酬が大幅に引き下げられることが決定しています(出典:厚生労働省、共同通信報道)。医療保険の訪問看護収益を高収益の源泉としてきたホスピス型住宅にとって、これは収益予測・企業価値評価の前提が変わることを意味します。M&Aでは、改定後の収益水準を織り込んだ評価が不可欠です。

なぜ評価前提の見直しが必要なのか

EV/EBITDAマルチプル法もDCF法も、将来のキャッシュフロー(=収益力)を出発点にします。制度改定によって訪問看護の単価が下がれば、同じ稼働・同じ入居者数でもEBITDAは縮小します。改定前の実績をそのまま基準にした評価は、買い手から「過大評価」と判断され、交渉の途中で減額される可能性が高くなります。

売り手・買い手それぞれの視点

  • 売り手の視点:改定前の高い収益実績で評価してほしいと考えがちだが、買い手は改定後の収益をベースに評価する。改定後も維持できる収益構造(重度化対応・人材・多角化)を示せるかが鍵になる。
  • 買い手の視点:改定インパクトを保守的に見積もり、収益が過剰請求に依存していないか、改定後も持続可能かを重点的にデューデリジェンスする。

このギャップを埋められるかどうかが、成約価格を左右します。だからこそ、制度改定を「リスク」として一方的に減額されるのではなく、改定後も残る収益基盤を可視化して交渉することが重要になります。

高く売るために準備できること

制度改定という逆風があるなかでも、事前準備によって評価を守り、高めることは可能です。売却を検討し始めた段階から着手できる打ち手を整理します。

収益とレセプトの「適正性」を証明できる状態にする

最も重要なのは、収益が適正な訪問看護に基づいていることを客観的に示せる状態を整えることです。訪問看護指示書・訪問記録・レセプトの整合性を点検し、制度改定後も維持できる収益構造であることを説明できれば、買い手の懸念を先回りして解消できます。

人材の定着と体制の見える化

  • 看護師・介護職員の配置状況、資格保有者数、勤続年数を整理する
  • 看取りや重度化対応の実績を記録として残す
  • キーパーソンとなる管理者・看護師の継続意向を確認しておく

人材はホスピス型住宅の中核資産です。定着した体制を数字と記録で示せることが、そのまま評価の裏付けになります。

契約・許認可・行政対応の書類整備

物件の賃貸借契約、介護保険の指定関連書類、過去の実地指導の記録と是正状況を整理しておきます。デューデリジェンスで速やかに開示できる状態は、買い手の安心につながり、交渉のスピードと価格の双方にプラスに働きます。

早めに専門家へ相談する

2026年6月の制度改定を踏まえると、評価の前提づくりや買い手候補との交渉には専門的な知見が欠かせません。医療・介護M&Aの実績を持つ仲介会社に早期に相談することで、自社の強みを正しく評価に反映させ、改定インパクトを一方的に押し付けられない交渉が可能になります。より詳しい進め方はホスピス・介護M&A特集もあわせてご覧ください。

よくある質問

ホスピス型住宅の相場は結局いくらですか?

一律の相場金額は存在しません。ホスピス型住宅の価値は稼働率・訪問看護レセプトの規模と安定性・人材・物件条件・行政リスクによって個別に決まり、同じ規模でも評価は大きく異なります。まずはEV/EBITDAマルチプル法と時価純資産法による概算評価を受け、自社の位置づけを把握することをおすすめします。

2026年6月の診療報酬引き下げがあると、今は売り時ではないのですか?

一概には言えません。制度改定は評価の前提を変えますが、改定後も維持できる収益基盤(重度化対応力・定着した人材・適正なレセプト)を示せる施設は引き続き評価されます。むしろ改定の影響を織り込んだ交渉が必要になるため、早めに準備し専門家と方針を固めることが重要です。

土地・建物を賃借していても売却できますか?

可能です。賃借の場合は賃料水準・契約残存期間・更新条件が評価に影響するため、事前に契約内容を整理しておくと交渉がスムーズになります。保有形態によって時価純資産法とEV/EBITDAマルチプル法の重み付けが変わる点も、専門家と確認しておくとよいでしょう。

売却のスキームは何が使えますか?

ホスピス型住宅の運営主体は株式会社が中心のため、株式譲渡が使えるケースが多いのが特徴です(医療法人と異なる点)。ほかに事業譲渡・会社分割も選択肢になります。介護・訪問看護の指定の承継可否がスキームによって変わるため、指定を継続しやすい株式譲渡や会社分割が選ばれることが多い一方、個別事情に応じた設計が必要です。

まとめ

ホスピス型住宅のM&Aに一律の相場はなく、収益力(EBITDA)と稼働率をベースに、EV/EBITDAマルチプル法と時価純資産法で個別に評価されます。価格を左右するのは、入居稼働率と重度化対応、訪問看護レセプトの規模と安定性、看護・介護人材の充足、物件の保有形態と賃料、そして指定・実地指導リスクの5つのドライバーです。

そして2026年6月の訪問看護 診療報酬引き下げ(出典:厚生労働省、共同通信報道)は、収益前提そのものを変える重要な制度変更です。改定後も維持できる収益基盤を可視化し、適正性を証明できる状態を整えることが、評価を守り、納得のいく条件で成約するための鍵になります。

CUCAPは病院・クリニック・介護分野に特化したM&A仲介会社です。ホスピス型住宅の企業価値評価から制度改定を踏まえた交渉戦略まで、専門チームが伴走します。「自社はいくらで評価されるのか」「今から何を準備すべきか」を知りたい方は、まずは無料相談までお気軽にお問い合わせください。秘密厳守で対応いたします。

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