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整形外科の開業売上と年収の実態|損益分岐点や失敗しない経営戦略を解説

整形外科の開業を検討する際、最も気になるのは「実際にどれくらいの売上が見込めるのか」「年収はいくらになるのか」という収益性の面ではないでしょうか。

POINT整形外科は全診療科の中でもトップクラスの売上規模と所得水準を誇る科目のひとつです。個人開業で平均年収約2,900万円、医療法人で約3,400万円という高い収益性を実現できます。

結論から言えば、整形外科は全診療科の中でもトップクラスの売上規模と所得水準を誇る科目のひとつです。厚生労働省の「医療経済実態調査」を見ても、その収益性の高さは数字として明確に表れています。しかし、その高い収益を支えているのは、単なる診察料だけではありません。リハビリテーションの運営、医療機器への投資判断、そして効率的なスタッフ配置といった「経営戦略」が成否を分けるのが整形外科経営の特徴です。

本記事では、整形外科の開業売上の相場から、損益分岐点の計算、成功の鍵を握るリハビリ戦略、さらには失敗を避けるためのリスク管理まで、データに基づき徹底的に解説します。


整形外科クリニックの平均売上と収益構造のデータ

整形外科の経営を検討する上で、まずは客観的な統計データを知ることが重要です。他の診療科と比較しても、整形外科は「単価」と「受診頻度」のバランスが非常に優れています

【個人・医療法人別】平均売上と所得の統計

厚生労働省が実施している「医療経済実態調査」のデータを参考にすると、整形外科クリニックの平均的な収益モデルが見えてきます。

区分 平均売上(年商) 平均所得(年収)
個人経営 約1億282万円 約2,900万円
医療法人 約1億4,849万円 約3,400万円

※数値は調査年度や地域、経営実態により変動しますが、一般的に個人開業で1億円、医療法人で1.5億円規模の売上がひとつの目安となります。

個人経営の場合、院長の所得は約2,900万円となっており、これは勤務医の平均年収(約1,200万〜1,500万円)の2倍近い水準です。医療法人化すると、役員報酬の調整や分院展開、より大規模なリハビリ運営が可能になるため、売上・所得ともにさらに上昇する傾向にあります。

整形外科が「他科より儲かる」と言われる理由

整形外科が安定して高い収益を上げられる最大の理由は、「ストック型の収益モデル」である点にあります。

  1. 高い再診率(リハビリ需要):
    風邪などの内科疾患は治癒すれば受診が終わりますが、慢性的な腰痛や関節痛、骨折後のリハビリは、週に数回の通院が数ヶ月続くことが一般的です。
  2. 診療報酬の積み上げ:
    診察だけでなく、レントゲン検査、骨密度測定、消炎鎮痛等処置、そして理学療法士による運動器リハビリテーション料など、1回の受診における加算ポイントが多岐にわたります。
  3. 高齢化社会による圧倒的な分母:
    日本は超高齢社会であり、運動器疾患を抱える患者数は増加の一途を辿っています。ターゲットとなる「膝」「腰」に悩む高齢者が地域に安定して存在することが、経営の安定に寄与します。
ストック型収益とは?

整形外科では、一度来院した患者が継続的に通院を続けるため、安定した売上基盤(ストック収益)を構築できます。これは内科や皮膚科のような「その都度型」の収益と大きく異なる特徴です。

診療報酬体系から見る収益の柱(処置・リハビリ・投薬)

整形外科の売上は、主に以下の4つの柱で構成されています。

  • 基本診療料: 再診料や外来管理加算など。
  • 検査・放射線料: レントゲン、MRI(導入している場合)、骨密度測定(DXA法など)。
  • 処置・手術料: 消炎鎮痛等処置、トリガーポイント注射、関節内注射、小規模な手術。
  • リハビリテーション料: 理学療法士(PT)や作業療法士(OT)による運動器リハビリテーション料。

特にリハビリテーション料は、整形外科の売上の3割〜5割を占めることも珍しくありません。物療(物理療法)だけでなく、セラピストによる個別リハビリをどれだけ回転させられるかが、経営の質を左右します。


整形外科開業における損益分岐点とシミュレーション

高い売上が見込める整形外科ですが、初期投資やランニングコスト(固定費)も他科に比べて高額になる傾向があります。損益分岐点を正確に把握しておくことが、キャッシュフローを破綻させないための絶対条件です。

固定費と変動費の内訳|人件費・賃料・医療機器ローン

整形外科経営を圧迫する主なコストは以下の通りです。

  • 人件費(固定費):
    看護師、医療事務に加え、理学療法士(PT)やリハビリ助手など、スタッフ数が多くなりがちです。売上の40%〜50%を人件費が占めることもあります。
  • 賃料・テナント料(固定費):
    リハビリ室を確保するため、少なくとも40〜60坪以上の広さが必要です。立地が良いほど賃料負担は重くなります。
  • 医療機器ローン(固定費):
    レントゲン、DR(デジタルラジオグラフィ)、骨密度測定装置、電子カルテなどは必須です。MRIを導入する場合、それだけで1億円近い投資が上乗せされ、毎月の返済額は数十万円単位で増加します。
  • 医薬品・材料費(変動費):
    注射薬や湿布、ギプス材料など。売上に連動しますが、整形外科の場合は内科ほど薬剤費比率は高くありません。

1日あたりの必要患者数(来院数)の算出方法

損益分岐点を突破するために必要な1日の患者数を算出してみましょう。

損益分岐点の計算例

  • 前提条件:
    月の固定費(人件費、家賃、リース、支払利息等):600万円
    患者1人あたりの平均単価:6,000円
  • 計算:
    600万円 ÷ 6,000円 = 1,000名(月間)
    1,000名 ÷ 20日(診療日数) = 50名 / 日

このシミュレーションでは、1日50人の来院があって初めて収支がゼロになります。院長の年収を2,900万円(月額約240万円)確保し、将来の設備更新のための利益を残すには、1日あたり70名〜80名以上の来院、あるいはリハビリ単価の向上が必須となります。

初期投資(開業資金)の回収期間とキャッシュフロー

整形外科の開業資金は、一般的に1.5億円〜2.5億円程度かかります。

  • 内装工事費:4,000万〜6,000万円
  • 医療機器:5,000万〜1億円(MRI導入ならさらにプラス)
  • 運転資金:2,000万〜3,000万円

借入金の返済期間を10年とした場合、毎月の返済額は元利合計で150万〜200万円程度になります。減価償却費はキャッシュアウトを伴わない費用ですが、返済原資は「利益 + 減価償却費」から算出する必要があるため、手元に残る現金(キャッシュフロー)を常にモニタリングしなければなりません。


成功の鍵を握る「リハビリテーション」の経営戦略

整形外科経営において、リハビリテーションを「単なる付帯サービス」と捉えるか、「利益の源泉」と捉えるかで、最終的な売上は数千万円単位で変わります

リハビリ運営による診療報酬の最大化(運動器リハビリテーション料)

現在の診療報酬制度では、理学療法士による1対1の個別リハビリ(運動器リハビリテーション料)が非常に高く設定されています。

  • 運動器リハビリテーション料(I): 185点(20分あたり)
  • 運動器リハビリテーション料(II): 170点(20分あたり)
POINT理学療法士が1日18単位〜24単位を実施した場合、PT1人あたり1日で約3.5万〜4.5万円の売上を生み出します。月に換算すれば、PT1人で80万〜100万円程度の売上貢献が可能です。

これに診察料や処置料が加わるため、PTを複数名雇用し、効率的にシフトを組むことが売上最大化の近道です。

理学療法士(PT)の採用と適切な人員配置

PTの採用は、整形外科経営における最大の課題の一つです。

  • 採用コスト: 競争が激しく、紹介会社経由だと年収の20〜30%の紹介料がかかることもあります。
  • 定着率: PTが離職すると、担当していた患者のリハビリがストップし、直接的な減収につながります。
  • 配置: リハビリ助手を活用し、PTが「PTにしかできない業務(個別リハ)」に集中できる環境を作ることが重要です。マッサージ的な処置や電気治療のセットは助手に任せ、PTは点数の高い運動療法に専念させます。

リハビリ室の面積と設備投資が売上に与える影響

「リハビリ室を広く取る」ことは、将来の拡張性を確保する上で不可欠です。

  • 物理療法(物療)スペース: 高齢者のコミュニティの場としての役割も果たし、再診率(来院頻度)を高めます。
  • 運動療法スペース: PTによるリハビリを行う場所です。ベッド数(プラットホーム数)が直接的に1日の最大提供単位数を規定するため、余裕を持った設計が必要です。

整形外科開業で「失敗」を避けるためのリスク管理

高収益が期待できる一方で、倒産や経営難に陥るケースも存在します。その多くは、開業前の見通しの甘さに起因します。

失敗事例から学ぶ:集患不足と高額な固定費の罠

最も多い失敗は、「過剰な設備投資をしたものの、患者が来ない」というパターンです。

MRIの導入タイミング:「MRIがあれば診断の質が上がる」と開業時から数億円のローンを組むと、1日あたりの損益分岐点患者数が一気に跳ね上がります。当初は近隣の病院への共同利用を検討し、軌道に乗ってから導入する判断も必要です。

  1. MRIの導入タイミング:
    「MRIがあれば診断の質が上がる」と開業時から数億円のローンを組むと、1日あたりの損益分岐点患者数が一気に跳ね上がります。当初は近隣の病院への共同利用を検討し、軌道に乗ってから導入する判断も必要です。
  2. スタッフの過剰雇用:
    立ち上がりからフルメンバーを揃えると、初動の赤字幅が大きくなります。患者数の増加に合わせて段階的に増員する計画性が求められます。

競合調査と立地選定の重要性(高齢者率とアクセス)

整形外科は、患者の「通いやすさ」が全てと言っても過言ではありません。

  • 高齢者の居住密度: 徒歩圏内、またはシルバーカーや自転車で通える範囲にどれだけターゲットがいるか。
  • 視認性とバリアフリー: 1階路面店が理想です。2階以上の場合はエレベーターの広さや、患者の心理的ハードルを考慮する必要があります。
  • 駐車場の確保: 地方や郊外では必須。駐車のしやすさ(幅広の設定など)も高齢患者には重要です。

スタッフの離職リスクが経営に与えるダメージ

整形外科は他科よりもスタッフ数が多いため、人間関係のトラブルや離職が経営に直結します。

  • 院長との方針のズレ: 院長が「質より量」を求めすぎると、志の高い理学療法士は去っていきます。
  • 労働環境: リハビリテーションは体力勝負です。適切な休憩や有給休暇の取得を軽視すると、一斉退職などのリスクを招きます。スタッフ教育と福利厚生への配慮は、長期的な売上安定への投資です。

診療科目別比較|整形外科の立ち位置と将来性

開業医で一番儲かるのは何科?産婦人科・眼科との比較

よく「儲かる科」として挙げられるのは、産婦人科、眼科、そして整形外科です。

  • 産婦人科: 分娩(自費)や不妊治療、手術料が高く、1人あたりの単価が非常に高いのが特徴ですが、24時間体制の待機や医療訴訟リスク、高額な設備投資が必要です。
  • 眼科: 白内障手術(日帰り手術)を効率的に行うことで、爆発的な利益を生むことが可能です。しかし、手術技術への依存度が高く、術者としての負担が大きいです。
  • 整形外科: 手術を行わなくても、リハビリという安定した再診需要があるため、「安定感」においてNo.1と言えます。

高齢化社会における整形外科需要の推移

2040年に向けて、いわゆる「団塊の世代」がすべて後期高齢者となります。骨粗鬆症による骨折リスクや、変形性関節症の患者数は今後も右肩上がりで増え続けることが予想されます。需要が減るリスクが極めて低いため、整形外科は今後も「強い診療科」であり続けるでしょう。

自由診療(自費診療)の導入による売上の上積み

保険診療の枠組みだけでなく、自費診療を組み合わせるクリニックも増えています。

  • 再生医療(PRP療法など): 変形性膝関節症などに対する自己血小板を用いた治療。
  • 衝撃波治療(自費分): 難治性の足底腱膜炎など。
  • パーソナルリハビリ: 保険適用期間が終了した患者に対する自費リハビリの提供。

整形外科の開業を成功させるための実践的ステップ

資金調達と事業計画書の精度を高める

銀行から有利な条件で融資を引き出すためには、「根拠のある数字」が不可欠です。

  • 近隣の競合クリニックの患者動態調査。
  • 予定している理学療法士の人数から算出する「リハビリ売上」のシミュレーション。
  • 最悪のシナリオ(想定の50%の集患)でも耐えられる運転資金の確保。

DX化による業務効率化(電子カルテ・自動精算機)

整形外科は患者数が多いため、事務作業の遅延が患者満足度を著しく下げます。

  • 電子カルテ: シェーマ(図解)入力のしやすさ、レントゲン画像との連携スピードが重要です。
  • 自動精算機: 会計待ち時間の短縮は、高齢患者にとって大きなメリットです。
  • Web予約・問診: 待ち時間の平準化を図り、スタッフの電話対応負荷を軽減します。

地域連携(病診連携)による紹介ルートの確立

売上を支えるのは、新規患者と継続患者の両輪です。

  • 大病院との連携: 手術後のリハビリを受け入れる(逆紹介)ルートを太くすることで、重症度の高い(=点数の高い)リハビリ患者を安定的に確保できます。
  • ケアマネジャーへの営業: 地域の介護事業所との連携を深めることで、リハビリを必要とする高齢者の紹介が増えます。

整形外科開業に関するよくある質問(FAQ)

整形外科は儲かりますか?

はい、平均的な所得水準は全診療科の中でも高い部類に入ります。ただし、リハビリテーションの運営効率や、高額な初期投資(借入金)の返済バランスに左右されます。適切な経営を行えば、非常に安定した収益が得られます。

開業医で一番儲かるのは何科ですか?

統計的には、産婦人科や眼科、整形外科が上位を占めます。ただし、産婦人科はリスクと負担、眼科は手術数、整形外科はリハビリ運営と、儲かるための「レバレッジのポイント」がそれぞれ異なります。

整形外科医の開業年収はいくらですか?

厚生労働省のデータでは、個人開業の平均所得は約2,900万円です。経営が非常に順調なクリニックや、多施設展開をしている医療法人では5,000万円〜1億円を超えるケースも存在します。

整形外科の平均売上はいくらですか?

個人経営で年間約1億円、医療法人で約1.5億円がひとつの平均的な目安です。1日平均の来院数が60名〜80名を超えてくると、これ以上の売上が見込めます。

リハビリなしの整形外科でも開業できますか?

可能ですが、おすすめはしません。整形外科の強みはリハビリによる再診率の高さと診療報酬の加算にあります。リハビリがない場合、単なる「診断と処方」のみとなり、内科や他科との差別化が難しく、収益性も大幅に低下します。


まとめ|整形外科の開業売上を最大化するために

整形外科の開業は、他科に比べて「ビジネスモデルとしての完成度」が非常に高いと言えます。高齢化という社会背景、リハビリによる継続的な来院、そして高い診療報酬。これらが組み合わさることで、年収2,900万円という高い水準が実現されています。

しかし、その成功を支えるのは、以下の3点に集約されます。

POINT

  1. 効率的なリハビリ運営: 理学療法士の採用・定着と、運動器リハビリテーション料の適切な算定。
  2. 緻密な財務設計: 1.5億円〜2.5億円に及ぶ初期投資の回収計画と、キャッシュフローの管理。
  3. 徹底した立地選定: 高齢者の動線とアクセスの良さを最優先した場所選び。

これから開業を目指す先生は、専門医としての確かな診療技術に加え、これらの「経営者としての視点」を持つことで、地域医療に貢献しながら高い収益性を維持するクリニックを築くことができるでしょう。


免責事項
本記事に含まれる情報は、執筆時点の診療報酬制度および公的統計に基づいています。実際の売上や年収は、立地条件、診療内容、経営努力、制度改正等により大きく変動するため、個別のケースについては税理士、公認会計士、コンサルタント等の専門家にご相談ください。

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