内科の開業を検討する際、最も気になる指標の一つが「売上」です。厚生労働省の統計データによると、内科クリニック(無床)の平均年間売上は約8,900万円とされています。しかし、この数字はあくまで平均であり、診療スタイルや専門性、立地条件によって数千万円単位の差が生じるのが実態です。
本記事では、内科開業における売上の現実を、最新の公的データや経営シミュレーションに基づき徹底的に解説します。1日の目標患者数、手取り年収、他科との比較、そして収益を最大化するための戦略まで、開業を成功に導くための具体的な指針を網羅しました。
内科クリニックの平均売上と経営実態
内科開業における売上の構造を理解するためには、まず公的な統計データに基づいた「平均値」を知ることが出発点となります。
厚生労働省「医療経済実態調査」から見る内科の平均年間収益
厚生労働省が実施している「医療経済実態調査(第23回:令和3年実施)」によれば、個人の内科クリニック(無床)の経営状況は以下の通りです。
| 項目 | 年間平均額(概数) |
|---|---|
| 医業収益(売上) | 約8,911万円 |
| 医業費用(経費) | 約6,571万円 |
| 医業利益(所得) | 約2,340万円 |
このデータから、内科クリニックの平均的な売上は約8,900万円、経費率は約73〜75%程度であることがわかります。ただし、この「売上」には保険診療報酬だけでなく、自由診療や公費負担(予防接種、健診など)も含まれています。
一般内科と専門内科(循環器・消化器等)による売上の差異
「内科」と一括りにしても、標榜する専門科目によって売上構造は大きく異なります。
- 一般内科(風邪や慢性疾患中心)
患者数は確保しやすいものの、診療単価は比較的低くなる傾向があります。多くの患者を効率よく診察する「薄利多売型」のモデルになりやすいのが特徴です。 - 専門内科(消化器、循環器、内視鏡等)
胃カメラや大腸カメラ、心エコーなどの検査機器を駆使する場合、手技料が加算されるため、1人あたりの診療単価(単価)が跳ね上がります。特に内視鏡内科などは、1日の患者数が少なくても高い売上を維持できる「高単価型」の経営が可能です。 - 専門内科(糖尿病、代謝内科等)
「特定疾患管理料」や「療養指導料」が継続的に算定できるため、ストック型の安定した収益が見込めます。
一般内科の診療単価は約6,000円ですが、内視鏡検査や特殊検査を行う専門内科では10,000円を超えることも。この単価差が年間売上で数千万円の違いを生み出します。
開業1年目・3年目・5年目の売上推移の目安
開業直後から平均売上に到達することは稀です。一般的な内科クリニックの売上推移は、以下のステップを辿ることが多いとされています。
- 開業1年目(立ち上げ期):売上3,000万〜5,000万円
認知度が低く、新患の獲得に苦戦する時期です。1日の患者数は10〜20人程度からスタートし、徐々に増えていきます。この時期は運転資金の持ち出しが発生することも少なくありません。 - 開業3年目(安定期):売上7,000万〜9,000万円
地域住民に認知され、慢性疾患を抱える「かかりつけ患者(再診)」が定着します。平均的な内科の売上水準に達し、経営が軌道に乗る時期です。 - 開業5年目以降(成長・成熟期):売上1億円超〜
口コミやWEB対策が功を奏し、1日の患者数が50人を超えてくると、売上1億円の大台が見えてきます。スタッフの増員や設備の更新など、再投資が必要になるフェーズです。
【シミュレーション】内科クリニックの1日の売上と患者数
売上を構成するのは「患者数 × 診療単価」のシンプルな数式です。内科開業で目標とすべき数値をシミュレーションしてみましょう。
内科クリニックの1日平均売上は約24万円
年間売上を8,900万円、年間診療日数を240日(週休2日+α)と仮定すると、1日の平均売上は約37万円となります。しかし、これは法人の大規模なクリニックも含んだ数字です。個人開業の初期段階では、まずは1日20万〜25万円前後を現実的な目標に据えるのが一般的です。
目標とすべき1日の患者数(30人・50人・80人の損益分岐点)
内科経営において、1日の患者数は収益性を左右する最大の要因です。診療単価を6,000円(600点)とした場合のシミュレーションは以下の通りです。
| 1日の患者数 | 1日の売上 | 年間売上(240日) | 経営状態の目安 |
|---|---|---|---|
| 30人 | 18万円 | 4,320万円 | 損益分岐点付近。医師の給与確保が厳しい場合も。 |
| 50人 | 30万円 | 7,200万円 | 安定経営。内科クリニックの標準的な規模。 |
| 80人 | 48万円 | 1億1,520万円 | 盛業。スタッフ増員や待ち時間対策が必須。 |
- 30人以下: 固定費(家賃や人件費)を支払うと、医師の手元に残る利益が勤務医時代より少なくなる可能性があります。
- 50人: 多くの開業医が第一目標とするラインです。内科医1人で無理なく診察できる適正な人数でもあります。
- 80人以上: 診察室を2診体制にする、あるいはクラーク(診療補助)を導入して効率化を図らない限り、待ち時間が長くなりすぎて患者満足度が低下するリスクがあります。
30人以下の患者数では、固定費を賄うことが困難で、勤務医時代より収入が減少するリスクがある
診療単価(診療報酬)の内訳と平均的なレセプト単価
内科の診療単価(レセプト単価)は、一般的に600点〜700点(6,000円〜7,000円)程度が平均です。
- 基本料: 再診料、外来診療料
- 管理料: 特定疾患管理料、地域包括診療料など
- 検査・処置: 血液検査、レントゲン、心電図など
- 処方: 処方箋料
専門的な検査(胃カメラ等)を行う日は単価が1,500点〜2,000点を超えることもありますが、毎月の定期受診の患者さんは管理料中心の単価となります。売上を上げるためには、単に患者数を増やすだけでなく、必要な検査や管理料を適切に算定することが重要です。
内科開業医の年収・手取り・中央値
「売上が高い=手取りが多い」とは限りません。開業医の収支構造を理解し、実質的な収入(所得)を把握しておく必要があります。
内科開業医の平均年収は約2,340万円|勤務医との比較
前述の通り、個人経営の内科クリニックの平均所得(年収)は約2,340万円です。勤務医の平均年収が約1,200万〜1,500万円であることを考えると、開業によって年収は約1.5倍〜2倍近くまで上昇する可能性があります。
ただし、開業医の年収には「経営リスクの対価」が含まれていることを忘れてはいけません。
売上から差し引かれる経費(人件費・賃料・医薬品・借入返済)
売上から以下の経費が引かれたものが「所得」となります。
- 人件費(15〜20%): 看護師、事務スタッフの給与。
- 医薬品・材料費(10〜15%): 院内処方の場合は高くなりますが、院外処方の場合は抑えられます。
- 賃料・固定費(10〜15%): テナント料、光熱費、リース料。
- その他(10%): 広告宣伝費、消耗品、学会費など。
帳簿上の「所得(利益)」から、さらに「銀行借入の元本返済」を支払う必要がある。返済金は経費にならないため、キャッシュフロー上は所得よりも手元に残る現金が少なくなる
税金差引後の「実質的な手取り額」の算出方法
所得が2,340万円あったとしても、そこから所得税・住民税、社会保険料が差し引かれます。
- 所得2,300万円の場合の所得税・住民税:およそ800万〜900万円程度
- 社会保険料:およそ150万〜200万円程度(医師国保・厚生年金等)
- 借入返済(元本):月額50万円(年間600万円)と仮定
年収中央値から見る成功している開業医の共通点
平均値は一部の高収益クリニックによって押し上げられるため、「中央値」は2,000万円前後と推測されます。年収2,500万円以上を安定して稼ぎ出す成功している開業医には、以下の共通点があります。
- 固定費のコントロールが上手い: 家賃設定が適切で、スタッフの配置が最適化されている。
- リピート率が高い: 新患頼みではなく、長期通院する慢性疾患患者の信頼を得ている。
- 自費診療の活用: インフルエンザワクチンや自費の健診、ビタミン注射などをバランスよく取り入れている。
内科と他診療科の収益比較|一番儲かる科はどこか?
内科は他科と比較してどのような立ち位置にあるのでしょうか。
診療科別売上ランキング(産婦人科・眼科・小児科との比較)
厚生労働省のデータに基づくと、診療科別の平均売上(個人クリニック)は以下の通りです。
- 産婦人科: 約1億7,000万円(分娩を伴う場合、単価が非常に高い)
- 眼科: 約1億2,000万円(白内障手術などの手技料が寄与)
- 内科:約8,900万円
- 小児科: 約8,000万円(感染症流行に左右されやすい)
- 皮膚科: 約7,500万円(単価は低いが回転率が非常に高い)
内科は全診療科の中で「中堅」の位置にいます。爆発的な高単価は望めないものの、患者層が厚く、景気に左右されにくい安定した収益が特徴です。
外科と内科の年収差|手術料と処置料の影響
外科系クリニックは、手術料や高額な処置料が算定できるため、売上は内科を上回ることが多いです。しかし、外科は「専門性の高い看護師」や「高額な医療機器・手術室維持費」が必要となり、経費率も高くなります。結果として、最終的な「利益(所得)」で見ると、内科と外科で大きな差がつかないケースも少なくありません。
糖尿病専門医・循環器専門医が内科開業で有利な理由
特定の内科専門医資格を持っていることは、経営上の大きな武器(差別化)になります。
- 糖尿病専門医:
「生活習慣病管理料」や「療養指導料」など、継続的な管理に対する診療報酬が充実しています。また、一度受診した患者は長期にわたって通院するため、収益の予測が立てやすいというメリットがあります。 - 循環器専門医:
心エコーやホルター心電図など、比較的診療単価の高い検査を日常的に実施できます。また、重症化予防の観点から地域連携(病診連携)のハブになりやすいのが強みです。
内科の売上を最大化する5つの経営戦略
売上を伸ばすためには、がむしゃらに患者を待つのではなく、戦略的な仕組み作りが必要です。
1. 増患対策:WEB予約・WEB問診導入による患者満足度の向上
現代の内科経営において、WEB対策は必須です。
- WEB予約システム: 待ち時間の可視化により、忙しい現役世代や子連れの親世代を取り込めます。
- WEB問診: 来院前に問診を済ませることで、診察室での滞在時間を短縮し、回転率を高めます。結果として、1日の対応可能患者数が増加します。
- Googleビジネスプロフィールの活用: 「地域名 + 内科」で検索された際に上位表示されるよう、口コミ管理や写真投稿を徹底します。
2. 診療単価の向上:特定疾患管理料や自由診療(予防接種・点滴等)の活用
単価を底上げするためには、算定漏れを防ぐことと自費項目の導入が有効です。
- 特定疾患管理料の徹底: 高血圧や脂質異常症などの慢性疾患患者に対し、適切な指導を行い管理料を算定します。
- 自由診療の導入:
- プラセンタ注射、ニンニク注射
- AGA治療薬の処方
- 自由診療の人間ドック・各種健診
これらは在庫リスクが低く、かつ窓口で現金収入が得られるためキャッシュフローの改善に役立ちます。
自由診療は保険診療と違い、価格設定の自由度が高く、即座に現金収入となるため、キャッシュフローの改善に直接的に寄与します。また、レセプト請求の手間がなく、事務負担軽減にもつながります。
3. コスト削減:スタッフ配置の最適化と在庫管理の徹底
利益(手取り)を増やすには、売上を上げることと同等に「支出を抑える」ことが重要です。
- 適切な人員配置: 患者数が少ない時間帯のパート雇用調整や、事務作業のDX化(自動精算機など)による省人化を図ります。
- 医薬品卸との交渉: 定期的に価格交渉を行い、仕入れコストを下げる努力が必要です。
4. リピート率(再診率)を高めるための院内動線と接遇
内科経営の安定は「再診患者」が支えています。
- 接遇教育: 受付スタッフの対応一つで、患者が他院へ流れるかどうかが決まります。
- 清潔感のある空間: 滞在時間を苦にさせない院内環境(無料Wi-Fi、ウォーターサーバーなど)も、リピートに繋がる要素です。
- 検査結果の分かりやすい説明: 「この先生なら信頼できる」という納得感が、継続通院を促します。
5. オンライン診療の導入による診療圏の拡大
再診患者の離脱を防ぐ手段として、オンライン診療は有効です。
- 忙しくて通院を中断しがちな生活習慣病患者に対し、オンラインでの処方を提案することで治療継続率を高めます。
- 物理的な診療圏を超えた患者層へのアプローチが可能になり、長期的な売上安定に寄与します。
内科開業における資金調達と融資のポイント
売上のシミュレーションができたら、それを実現するための「土台」となる資金計画を立てます。
内科開業に必要な初期投資(戸建て・ビル診)の相場
内科の開業形態によって初期費用は大きく変動します。
- テナント(ビル診):5,000万〜8,000万円
内装工事費、医療機器(レントゲン、超音波、電子カルテ等)、広告費などが中心です。 - 戸建て開業:1億円〜1億5,000万円以上
土地代(購入の場合)や建築費が加わるため、投資額は跳ね上がりますが、視認性や駐車場の確保において有利です。
診療所開業融資の審査を通すための事業計画書の書き方
銀行や福祉医療機構(WAM)から融資を受ける際、鍵となるのが「事業計画書」の売上予測です。
- 根拠のある患者数設定: 診療圏調査の結果を基に、なぜ1日30人の来院が見込めるのかを論理的に説明します。
- 保守的な収支計画: 売上を高く見積もりすぎず、ワーストケースを想定したキャッシュフロー計画を示すと、金融機関からの信頼が得やすくなります。
運転資金の確保とキャッシュフロー管理の重要性
開業から半年〜1年程度は、売上が安定せず赤字になることもあります。
- 運転資金: 最低でも半年分(1,500万〜2,000万円程度)の運転資金を確保しておくことが推奨されます。
- レセプト入金のタイムラグ: 保険診療の入金は、診療から約2ヶ月後です。その間の支払い(人件費や家賃)を賄うためのキャッシュが必要です。
開業初期は予想以上に現金の流出が続くため、運転資金は多めに確保しておく方が安全です。特に開業1年目は患者数が安定しないため、資金ショートのリスクを常に念頭に置いた経営が求められます。
内科開業の売上に関するよくある質問(FAQ)
内科の開業を検討する医師から多く寄せられる質問に、一問一答形式で回答します。
Q1. 内科クリニックの一日の売上はいくらですか?
平均的な内科クリニックでは、1日あたり約24万〜37万円程度です。1日患者数50人×単価6,000円で30万円というのが、多くの個人開業医が維持している水準です。
Q2. 内科の開業医の収入はいくらですか?
年間の医業利益(所得)の平均は約2,340万円です。ここから税金や社会保険料、借入金の元本返済を引いた「実質的な手取り」は、1,200万〜1,500万円程度になるケースが多いです。
Q3. 開業医で一番儲かるのは何科ですか?
売上規模では産婦人科や眼科が上位ですが、これらは設備投資や人件費も高額です. 利益率や経営の安定性という観点では、内科(特に透析や内視鏡を強みとするクリニック)や、初期投資が極めて低い心療内科なども収益性が高いとされています。
Q4. 内科と外科ではどちらが儲かりますか?
売上単価は外科の方が高いですが、利益率や患者の継続性は内科の方が高い傾向にあります。外科は手術などの属人的な手技に依存する一方、内科は慢性疾患の管理というストック型ビジネスの側面があるため、長期的な経営の安定感は内科に軍配が上がることが多いです。
Q5. 糖尿病専門医として開業する場合の強みは何ですか?
「生活習慣病管理料」などの継続的な管理料が算定しやすい点が最大の強みです。また、患者が一度定着すると10年単位での継続通院が見込めるため、新患獲得コストを抑えながら安定した売上基盤を構築できます。
Q6. 開業医の年収の中央値はどれくらいですか?
公的な統計での平均値は2,300万円強ですが、成功している層が数値を引き上げているため、中央値としては2,000万円前後と考えるのが妥当です。勤務医時代よりも高収入を得ている医師が多数派ですが、経営状況によっては勤務医時代を下回るリスクもゼロではありません。
まとめ:内科開業で安定した売上を維持するために
内科の開業売上を左右するのは、単なる「医師としての腕」だけではなく、「経営者としての視点」です。
- 平均売上8,900万円という基準を念頭に、自院の目標を1日患者数50人・単価6,000円(30万円/日)に設定する。
- 専門性を活かした単価アップ(管理料・検査・自費診療)と、DXによる効率化を両立させる。
- 手取り額を増やすために、過剰な投資を避け、キャッシュフローを厳格に管理する。
内科は地域のインフラとしての役割が強く、信頼を積み重ねることで着実な収益を上げられる診療科です。本記事で解説したシミュレーションを参考に、無理のない、かつ攻めの姿勢を持った事業計画を策定してください。
免責事項:
本記事に記載されている数値(売上・年収・経費等)は、公的統計や一般的な事例に基づく目安であり、個別の立地、診療内容、経営努力によって大きく異なります。実際の開業にあたっては、必ず専門のコンサルタントや税理士、金融機関と相談の上、自己責任で判断を行ってください。